エネルギー産生栄養素バランス

Energy Production Nutrient Balance
Energy Production Nutrient Balance

エネルギー産生栄養素バランスの活用上の注意

  1. 基準とした値の幅の両端は明確な境界を示すものではなく,柔軟に用いるべきです.
  2. 脂質と炭水化物についてはそれぞれの栄養素の質に配慮すべきです.つまり個々の脂肪酸や糖の構成,特に飽和脂肪酸と食物繊維に配慮が必要です.
  3. 疾患の発症予防や重症化予防を試みる場合は栄養素バランスの摂取の実態を総合的に把握し,適正な構成比率を判断すべきです.
エネルギー産生栄養素バランス (% energy)
目標量(中央値)
年齢 たんぱく質 脂質 炭水化物
脂質 飽和脂肪酸
0-11 M
1-17 13-20 (16.5) 20-30 (25) 50-65 (57.5)
18-69 13-20 (16.5) 20-30 (25) ≤ 7 50-65 (57.5)
70- 13-20 (16.5) 20-30 (25) ≤ 7 50-65 (57.5)

 エネルギー産生栄養素バランスについては 2010 年版には直接の記述はありません.炭水化物の章に以下の記述があるのみです.

炭水化物の望ましい摂取量は,十分なたんぱく質(推奨量付近またはそれ以上)と適度な脂質(目標量の範囲内)を摂取している条件下において,これらに由来するエネルギーと推定エネルギー必要量の差として決定され,これを目標量(下限ならびに上限)とすることが適当であると考えられる.

 2015 年版においては各種栄養素の不足を回避することと生活習慣病の発症予防と重症化予防とを目的として,たんぱく質,脂質,炭水化物が総エネルギー摂取量に占めるべき割合(%エネルギー)としてエネルギー産生栄養素バランスを策定しています.

エネルギー換算係数

 たんぱく質,脂質,炭水化物のエネルギー換算係数はそれぞれ 4 kcal/g, 9 kcal/g, 4 kcal/g です.アルコールのエネルギー換算係数は 7 kcal/g です.

たんぱく質

 たんぱく質のエネルギー産生栄養バランスは 13-20 % エネルギーです.13 % エネルギーはたんぱく質の推奨量に等しく,20 % エネルギーは 2.0 g/kg/d に等しくなります.高齢者や妊婦・授乳婦では目標量の下限に近づかないよう注意が必要です.エネルギー摂取量が低い状態でも必要なたんぱく質は必ず確保しなければなりません.

脂質

 脂質のエネルギー産生栄養バランスは 20-30 % エネルギーです.20 % エネルギーは必須脂肪酸の目安量であり,30 % エネルギーは飽和脂肪酸の目標量を考慮して設定されています.飽和脂肪酸は心筋梗塞の発症および重症化予防の観点から 7 % エネルギー以下と設定されています.小児の飽和脂肪酸については根拠が得られず設定されていませんが,過剰摂取には注意したほうがよいと思われます.また必須脂肪酸(n-3 系脂肪酸,n-6 系脂肪酸)の目安量など脂質の質にも注意が必要です.

炭水化物

 炭水化物にはアルコールを含み,たんぱく質と脂質との残余として設定されました.たんぱく質と脂質が共に目標量の下限値の場合,炭水化物は 67 % エネルギーとなりますが,炭水化物の多い食事は精製度の高い穀類,甘味料,アルコールといった食事になりかねず,これは好ましくありません.そのため炭水化物の目標量の上限を 65 % エネルギーと設定しました.一方,たんぱく質と脂質が共に目標量の上限値の場合,炭水化物の目標量の下限値は 50 % エネルギーとなります.この場合は食物繊維の摂取不足に注意が必要です.

参照:
日本人の食事摂取基準(2015 年版)エネルギー産生栄養素バランス (pdf)
日本人の食事摂取基準(2010 年版)炭水化物 (pdf)

たんぱく質

RecommendeAmountProtein

 たんぱく質についての記載は 2010 年版では 9 ページ,参考文献は 73 件ですが 2015 年版では 14 ページ,参考文献 119 件に増えています.

 2010 年版では耐用上限量を設定していませんが,成人においてはたんぱく質摂取量は 2.0 g/kg/d 未満に留めるのが望ましいとしています.

 2015 年版では生活習慣病の重症化予防に重点を置いており,たんぱく質エネルギー比率が 20 % エネルギーを超えた場合の健康障害として糖尿病発症リスクの増加,心血管疾患の増加,がんの発症率の増加,骨量の減少,BMI の増加を挙げて,たんぱく質エネルギー比率が 20 % エネルギーを超えないように注意を喚起しています.

 不可欠アミノ酸(必須アミノ酸)の推定平均必要量については 2010 年版では成人のみ記載されていましたが 2015 年版では乳児・小児についても記載が追加されています.

 2015 年版のたんぱく質の食事摂取基準は下表のとおりです.

たんぱく質の食事摂取基準(推定平均必要量・推奨量・目安量 (g/d), 目標量(中央値) % エネルギー)2015 年版
性別 男性 女性
年齢 推定平均必要量 推奨量 目安量 目標量 (中央値) 推定平均必要量 推奨量 目安量 目標量 (中央値)
0-5 M 10 10
6-8 M 15 15
9-11 M 25 25
1-2 15 20 13-20 (16.5) 15 20 13-20 (16.5)
3-5 20 25 13-20 (16.5) 20 25 13-20 (16.5)
6-7 25 35 13-20 (16.5) 25 30 13-20 (16.5)
8-9 35 40 13-20 (16.5) 30 40 13-20 (16.5)
10-11 40 50 13-20 (16.5) 40 50 13-20 (16.5)
12-14 50 60 13-20 (16.5) 45 55 13-20 (16.5)
15-17 50 65 13-20 (16.5) 45 55 13-20 (16.5)
18-29 50 60 13-20 (16.5) 40 50 13-20 (16.5)
30-49 50 60 13-20 (16.5) 40 50 13-20 (16.5)
50-69 50 60 13-20 (16.5) 40 50 13-20 (16.5)
70- 50 60 13-20 (16.5) 40 50 13-20 (16.5)
妊婦初期付加量 0 0
妊婦中期付加量 5 10
妊婦後期付加量 20 25
授乳婦 付加量 15 20

 2010 年版のたんぱく質の食事摂取基準は下表のとおりです.

たんぱく質の食事摂取基準 (g/d) 2010 年版
性別 男性 女性
年齢 推定平均必要量 推奨量 目安量 耐用上限量 推定平均必要量 推奨量 目安量 耐用上限量
0-5 M 10 10
6-8 M 15 15
9-11 M 25 25
1-2 15 20 15 20
3-5 20 25 20 25
6-7 25 30 25 30
8-9 30 40 30 40
10-11 40 45 35 45
12-14 45 60 45 55
15-17 50 60 45 55
18-29 50 60 40 50
30-49 50 60 40 50
50-69 50 60 40 50
70- 50 60 40 50
妊婦初期付加量 0 0
妊婦中期付加量 5 10
妊婦後期付加量 20 25
授乳婦 付加量 15 20

 窒素出納実験により測定された動物性たんぱく質のたんぱく質維持必要量をもとに,それを日常食混合たんぱく質の消化率で補正して推定平均必要量算定の参照値を算定し,その上に個人間変動を加えて推奨量を算定します.

 たんぱく質の推奨量 (g/d) は,推定平均必要量 (g/d) と推奨量算定係数との積です.推定平均必要量は,推定平均必要量算定の参照値 (g/kg/d) と参照体重 (kg) との積です.推定平均必要量算定の参照値は,たんぱく質維持必要量 (g/kg/d) を消化率で除した値です.

 推奨量算定系数は 1.25 です.消化率は 0.9 です.

成人

 動物性たんぱく質の窒素出納維持量を検討した 17 の研究の平均値から求めた成人のたんぱく質維持必要量は 0.65 g/kg/d で,消化率 0.9 で割ると推定平均必要量算定の参照値は 0.72 g/kg/d です.

\mathrm{Estimated\ Averege\ Requirement}=0.72\times\mathrm{Reference\ Weight}
\mathrm{Recommended\ Amount}=\mathrm{Estimated\ Average\ Requirement}\times1.25

高齢者

 高齢者のたんぱく質推定平均必要量は 0.85 g/kg/d です(ただし消化率で補正済み).5 つの研究の 60 名の被験者の窒素出納 144 データを用いたプール解析から算出した値です.

小児

 小児の推定平均必要量算定の参照値は,たんぱく質維持必要量とたんぱく質蓄積量の和です.推定平均必要量は,推定平均必要量算定の参照値に参照体重を乗じて求めます.推奨値は推定平均必要量に推奨量算定係数 1.25 を乗じた値です.たんぱく質維持必要量は 0.67 g/kg/d です.

小児についてはさらに下表のように詳細な記載があります.2010 年版もありますが,基準体重の数値およびその計算結果が異なるだけなので掲載しません.また小児の推定平均必要量算定の参照値を求める下式は 2010 年版は誤りで,2015 年版が正しい式です.

小児の推定平均必要量,推奨量 2015 年版
男子
A B C D E F G H I
年齢 (Y) 参照体重 (kg) 体重増加量 (kg/Y) 体たんぱく質 (%) 体たんぱく質蓄積量 (g/kg/d) 蓄積効率 (%) たんぱく質維持必要量 (g/kg/d) 利用効率 (%) 推定平均必要量 (g/d) 推奨量 (g/d)
1-2 11.5 2.1 13.2 0.064 40 0.67 70 12.9 16.1
3-5 16.5 2.1 14.7 0.050 40 0.67 70 17.9 22.3
6-7 22.2 2.7 15.5 0.051 40 0.67 70 24.1 30.1
8-9 28.0 3.2 14.5 0.046 40 0.67 70 30.0 37.5
10-11 35.6 4.7 13.9 0.050 40 0.67 75 36.3 45.3
12-14 49.0 5.1 13.9 0.039 40 0.67 80 45.9 57.3
15-17 59.7 2.0 15.0 0.014 40 0.67 85 49.1 61.4
女子
A B C D E F G H I
年齢 (Y) 参照体重 (kg) 体重増加量 (kg/Y) 体たんぱく質 (%) 体たんぱく質蓄積量 (g/kg/d) 蓄積効率 (%) たんぱく質維持必要量 (g/kg/d) 利用効率 (%) 推定平均必要量 (g/d) 推奨量 (g/d)
1-2 11.0 2.2 13.0 0.070 40 0.67 70 12.5 15.6
3-5 16.1 2.1 14.1 0.051 40 0.67 70 17.5 21.8
6-7 21.9 2.5 14.1 0.045 40 0.67 70 23.4 29.3
8-9 27.4 3.4 13.7 0.046 40 0.67 70 29.4 36.7
10-11 36.3 5.1 14.6 0.057 40 0.67 75 37.6 47.0
12-14 47.5 3.0 14.8 0.026 40 0.67 80 42.8 53.6
15-17 51.9 0.7 11.9 0.004 40 0.67 85 41.5 51.8
\displaystyle D = \frac{B\times1,000}{365} \times \frac{C}{100 \times A}\\  \\  H = \left( \frac{D}{E} \times 100 + \frac{F}{G} \times 100 \right) \times A\\  \\  I = H \times 1.25

乳児

 乳児については目安量となります.0-5 ヶ月では 9.83 g/d であり, 6-8 ヶ月では 12.5 g/d であり, 9-11 ヶ月では 22.0 g/d です.人工栄養児の目安量は 0-5 ヶ月では 14.0 g/d であり, 6-8 ヶ月では 15.2 g/d であり, 9-11 ヶ月では 23.8 g/d です.

妊婦

 妊婦ではたんぱく質の付加量を最終的な体重増加を 11.0 kg と仮定し,体カリウム増加量から間接的に算定します.妊婦の付加量の推定平均必要量は初期は 0 g/d であり,中期は 4.51 g/d であり,後期は 18.98 g/d です.妊婦の付加量の推奨量は初期は 0 g/d であり,中期は 5.64 g/d であり,後期は 23.73 g/d です.

授乳婦

 授乳婦の付加量の推定平均必要量は 14.04 g/d, 推奨量は 17.6 g/d です.1 日の平均泌乳量は 0.78 L/d であり,母乳中のたんぱく質濃度の平均値は 12.6 g/L です.食事性たんぱく質の母乳たんぱく質への変換効率は 70 % です.

不可欠アミノ酸

 不可欠アミノ酸(必須アミノ酸)の推定平均必要量は下記のとおりです.

不可欠アミノ酸の推定平均必要量 2015 年版
His Ile Leu Lys SAA AAA Thr Trp Val Total
組織アミノ酸パターン 27 35 75 73 35 73 42 12 49 421
維持アミノ酸パターン 15 30 59 45 22 38 23 6 39 277
たんぱく質必要量 (g/kg/d) に対するアミノ酸必要量 (mg/kg/d)
年齢 維持量 成長量 His Ile Leu Lys SAA AAA Thr Trp Val Total
0.5 0.66 0.46 22 36 73 63 31 59 35 9.5 48 376
1-2 0.66 0.20 15 27 54 44 22 40 24 6.4 36 267
3-10 0.66 0.07 12 22 44 35 17 30 18 4.8 29 212
11-14 0.66 0.07 12 22 44 35 17 30 18 4.8 29 212
15-17 0.66 0.04 11 21 42 33 16 28 17 4.5 28 200
18- 0.66 0.00 10 20 39 30 15 25 15 4.0 26 183
評点パターン (mg/g protein)
年齢 His Ile Leu Lys SAA AAA Thr Trp Val Total
0.5 20 32 66 57 28 52 31 8.5 43 336
1-2 18 31 63 52 25 46 27 7.4 41 310
3-10 16 30 61 48 23 41 25 6.6 40 291
11-14 16 30 61 48 23 41 25 6.6 40 291
15-17 16 30 60 47 23 40 24 6.4 40 286
18- 15 30 59 45 22 38 23 6.0 39 277

参照:
日本人の食事摂取基準(2015 年版)たんぱく質 (pdf)
日本人の食事摂取基準(2010 年版)たんぱく質 (pdf)