その他の脂質

一価不飽和脂肪酸

 一価不飽和脂肪酸は食品から摂取される他に Δ9 不飽和酵素により飽和脂肪酸からも生合成されます.平成 22 年および 23 年の国民健康・栄養調査に基づく一価不飽和脂肪酸摂取量の日本人の中央値は男性 20.8 g/d (9.0 %E), 女性 17.3 g/d (9.5 %E) です.

 一価不飽和脂肪酸に富む食事を摂取しても LDL コレステロールは増加せず, HDL コレステロールは減少せず,中性脂肪は増加しません.炭水化物を一価不飽和脂肪酸または多価不飽和脂肪酸で置換した場合,一価不飽和脂肪酸よりも多価不飽和脂肪酸の方が LDL コレステロール低下作用は強い結果が出ています.

 一価不飽和脂肪酸と冠動脈疾患との関連は一貫していません.Seven Countries 研究は冠動脈疾患死亡リスク減少を報告していますが,Nurses’s Health 研究は関連なしと報告しています.冠動脈疾患の増加を報告しているのは Framingham 研究デンマークのコホート研究Lipid Research Clinics Prevalence Follow-Up 研究Strong Heart 研究です.その他,肥満との関連,インスリン感受性や抵抗性に関する報告がありますが結論は出ていません.

トランス脂肪酸

 工業由来のトランス脂肪酸を含む油脂を摂取すると冠動脈疾患のリスクになることが報告されています.しかし,自然界に存在するトランス脂肪酸は,乳製品や肉に含まれますが,冠動脈疾患のリスクにはなりません.平成 15 年から 19 年までの国民健康・栄養調査によると工業由来のトランス脂肪酸摂取量の中央値は男性で 0.292 g/d (0.13 %E), 女性で 0.299 g/d (0.16 %E) です.トランス脂肪酸の代表はショートニングです.

 2011 年のメタアナリシスで,工業由来のトランス脂肪酸の最大摂取群は最小摂取群に比較して冠動脈疾患の相対危険度が 1.3 倍増加することが示されています.糖尿病罹患リスクとの関連は一貫していません.トランス脂肪酸摂取量と冠動脈疾患との正相関血中 CRP 値との正相関の報告があります.

 共役リノール酸,ジアシルグリセロール,中鎖トリアシルグリセロール,植物ステロールについては疫学研究が不十分なこと,摂取量の推定が難しく検討されていません.

コレステロール

 コレステロールは体内で産生される脂質でその産生量は 12-13 mg/kg/d です.体内で産生されるコレステロールは経口摂取されるコレステロールの 3-7 倍あります.肝臓でのコレステロール産生は食事からのコレステロール摂取量により調節される負のフィードバックが働きます.

 鶏卵はコレステロール含有量が多いため,卵の摂取量と動脈硬化疾患との関連を調査した研究がいくつかあります.2013 年のメタ解析では卵の摂取量と冠動脈疾患および脳卒中罹患との関連は認められていません.日本人を対象にしたコホート研究でも卵の摂取量と虚血性心疾患や脳卒中による死亡率との関連は認められていません.JPHC 研究においても冠動脈疾患罹患との関連は認められていません

 がんとの関連についてもいくつか報告があります.NIPPON DATA 80 において女性では卵を 2 個以上摂取群では 1 個群に比較してがん死亡相対危険度は 2 倍でしたが,統計的有意ではありませんでした.その他,コレステロール摂取量と卵巣がん子宮内膜がんに正相関が認められています.肝硬変または肝臓がんのハザード比が 2.45 で有意に高いとの報告もあります.

参照:
日本人の食事摂取基準(2015 年版)脂質 (pdf)
日本人の食事摂取基準(2010 年版)脂質 (pdf)