地中海式料理と虚血性脳卒中,心筋梗塞,血管死との関連:the Northern Manhattan Study

 米国内で地中海料理と心血管疾患・脳血管疾患について調査した試験です.症例数が少なく,脳卒中との間には有意な相関は見られませんでしたが,米国で最初の多民族を対象に前向きコホート試験を行ったという意義があります.考察の文中の丸括弧は参考文献の番号です.和訳の瑕疵の責任は私にあります.

Mediterranean-style diet and risk of ischemic stroke, myocardial infarction, and vascular death: the Northern Manhattan Study

Hannah Gardener, Clinton B Wright, Yian Gu, Ryan T Demmer, Bernadette Boden-Albala, Mitchell SV Elkind, Ralph L Sacco, and Nikolaos Scarmeas

要約

背景 地中海沿岸で一般的にみられる食事パターンは全ての死亡および虚血性心疾患のリスクを減少させているように見える.合衆国における黒人とヒスパニック系でのデータが欠損しており,私たちの知る限り脳卒中に関連する地中海式料理の唯一の試験が行われたのみである.

対象 本試験では我々は地中海式料理と血管イベントの関連について試験した.

デザイン The Northern Manhattan Study は人口に基くコホート研究で,脳卒中発生率と危険因子を定義した.参加者の年齢の平均値と標準偏差は 69 ± 10 歳であり,64% が女性であり,55% がヒスパニック系,21% が白人で 24% が黒人であった.2568 名の参加者から食事頻度のアンケートを行なってベースラインの食事を評価した.0-9 点で表現する点数が高いほど地中海式料理の遵守率が高いことを示す.地中海式料理と虚血性脳卒中,心筋梗塞,心血管死との間の関連は,社会人口統計学的かつ心血管危険因子で制御した Cox モデルによって評価した.

結果 地中海式料理スコアの分布は以下のとおりである.0-2 点 (14%), 3 点 (17%), 4 点 (22%), 5 点 (22%), 6-9 点 (25%). 平均観察期間は9年を超え,518 件の血管イベントが発生した.171 件の虚血性脳卒中,133 件の心筋梗塞,314 件の血管死.地中海式料理スコアは虚血性脳卒中,心筋梗塞,心血管死の複合転帰のリスクと逆相関していた (P = 0.02).中等度または高度の地中海式料理スコアはわずかに心筋梗塞のリスク減少と関連していた.虚血性脳卒中とは何の関連もなかった.

考察 地中海式料理の消費の大きさと心血管死のリスクの減少は関係している.その結果は豊富な果実類,野菜類,全粒穀物,魚類,オリーブオイルを用いた料理が心血管の健康にとって理想的であることを支持している.

Am J Clin Nutr 2011; 94: 1458-64.

導入

 AHA は最近,理想的な心血管の健康を達成するための目的を定義する国を挙げてのキャンペーンを開始した.それには推奨される食事を含み (1), 地中海料理が心血管疾患に対して印象的な効果を有することを示す科学的勧告 (2, 3) を発行した.地中海料理は,地中海沿岸の人々にとっては典型的な食習慣であるが,果実類,野菜類,一価不飽和脂肪酸,魚類,全粒穀物,豆類,ナッツ類を比較的多量に摂取し,中等度のアルコールを消費し,肉や飽和脂肪酸,精白穀物はほとんど摂取しない.故に地中海料理の順守は AHA の食事ガイドラインと整合性がある.地中海料理はその多くの健康上の理由から広く公表されている.多くの試験が地中海料理の消費は全ての原因の死亡率に対する強い防御因子であることを示唆している.幾つかの癌,虚血性心疾患,糖尿病,高血圧,肥満,アルツハイマー病,脂質異常症 (4-14).しかし我々の知る限り,地中海料理と脳卒中のリスクの間の関係を調べたのは過去に1つの試験があるだけだった.主に白人女性の看護師を対象にした大規模コホート試験において,地中海料理は脳卒中と虚血性心疾患とに逆相関するというものである (15).

 合衆国の住民,特にヒスパニック系と黒人における地中海料理の健康への影響に関するデータは限られている.黒人とヒスパニック系住民においては血管疾患,特に脳卒中のリスクが高まっているために (16),人種および民族的多様性を持つ米国の人口においては,修飾可能な危険因子を試験した研究は重要である.本試験の目的は地中海料理と虚血性脳卒中,心筋梗塞,血管死との関連を人口ベースの前向きコホートで調査することであり,同一コミュニティに済む男性と女性,黒人,白人とヒスパニック系住民を含む.

対象と方法

調査対象母集団

 NOMAS は多民族都市人口において脳卒中発生率,危険因子と予後を定義した前向きコホート試験である.マンハッタン北部はニューヨーク市の中でも人種・民族の分布が理想的な地域である.63% のヒスパニック系,20% の非ヒスパニック系黒人,15% の非ヒスパニック系白人が住んでいる.試験の詳細は既に出版されている (17).

 適格な対象とは 1) 虚血性脳卒中と診断されたことがなく,2) 年齢が40歳より高齢であり,3) 北部マンハッタンに3ヶ月以上居住していて電話を持っている人々である.対象者は乱数列による電話で同定し,二ヶ国語を話す訓練された調査員によりインタビューを実施した.電話の応答率は 91% であった.対象者は電話での標本から,対面でのインタビューと評価に進んだ後,採用した.登録応答率は 75% であったが,全体での参加率は 69% であり,総数で 3298 名が採用され,そのうち定期的な接触率は平均で 95% であった.ベースライン以前に心筋梗塞を持つ参加者 (n=237) は除外した.本試験はコロンビア大学とマイアミ大学の倫理委員会が承認し,全対象者から同意を得た.

ベースライン評価

 訓練された二ヶ国語を話す調査員が英語かスペイン語でのインタビューを通じてデータを収集した.身体所見と神経学的所見は神経科医が実施した.人種民族は,米国構成調査をモデルにし,政令15による標準的定義 (18 Stat Report 1977; 77-110: 450-4) に準拠した一連の質問を通じた自己認識に基づいていた.標準的質問は,高血圧・糖尿病・喫煙および心疾患に関する CDC による行動危険因子サーベイランスシステムで採用されている (19 JAMA 1999; 281:53-60).血圧は適切な大きさのカフと水銀血圧計で測定した.高血圧は 140/90 以上(座位にて2回測定した平均値に基づく)か,患者が高血圧と自己申告するか,降圧薬を服用していると自己申告した場合と定義した.糖尿病の定義は,患者が糖尿病と自己申告するか,インスリンか経口血糖降下薬を使用していると自己申告したか,空腹時血糖値 126 mg/dL 以上の場合とした.高コレステロール血症の定義は,総コレステロール値が 200 mg/dL より高いか,スタチンを服用しているか,高コレステロール血症の既往があると自己申告した場合とした.身体活動の定義は,先述したように (20),インタビュー前の2週間で14の異なる余暇活動の頻度と期間とした.

食事

 ベースライン時において,訓練された調査員によって英語かスペイン語で,参加者はブロック国立がん研究所の変法の食品頻度アンケートを受けた.この食事頻度アンケート調査は前年に渡る食事パターンを評価するものである.食品の応答は特徴的なスペイン料理の項目を含んで修飾されていた.我々は以前に述べた地中海料理スコアを構築する方法を継続した (12, 22).まずキロカロリーの摂取量を除き,次のそれぞれのカテゴリーに従って日々の摂取量をグラムで派生して残りを計算した.乳類,肉類,果実類,野菜類(いも類を除く),豆類,シリアル(精製または全粒穀物をすべて含む),魚類 (22).各々はそれぞれ有益な要素(果実類,野菜類,豆類,穀物,魚類)の一つの値に割り当てられた.その消費量は性別に特異的に中央値上かそれより多かった.有害な要素(肉類と乳製品類)は消費量の中央値未満であった.一価不飽和脂肪酸の飽和脂肪酸に対する比率は中央値より上であった.アルコール消費量は軽度又は中等度(前年全体で,週に0日より多く2日以下)であった (19).食事スコアは食事カテゴリーの点数を合計したものである(0-9点).点数が高いほど地中海料理パターンにより近いことを示唆している.スコアは五分位 (0-2, 3, 4, 5, 6-9) の連続変数として解析した.食事頻度データは地中海料理スコアを計算するのに十分であり,NOMAS の参加者の 84% にとって利用可能であった.

前向き観察

 被験者は毎年電話でスクリーニングされた.その目的は生存状況の変化を定義し,神経学的事象を検出し,入院間隔を文書化し,危険因子の状況,服薬の変化,身体能力の変化を見直すことである.陽性とスクリーニングされた被験者には対面による評価のスケジュールを設定した.それにはグラフ化したレビューと神経内科医による検査が含まれていた.入退院情報の病院調査を継続しつつ,それには国際疾病分類第9版が含まれるのだが,臨床転帰事象を検出するのにレビューした.

転帰の定義

 主要な転帰は 1) 突発的な血管イベント(突発的な虚血性脳卒中や心筋梗塞または血管死)同様に 2) 突発的な虚血性脳卒中,3) 突発的な心筋梗塞,4) 血管死である.経過観察の措置と転帰の分類は以前に詳述された (23, 24).全ての入院カルテを見直し,疑われる事象を検証した.転帰事象を特別に訓練した調査員により見直し,可能な場合はカルテを見直した(91% の脳卒中,99% の心筋梗塞).2名の神経内科医が別々に,データの見直し後に脳卒中を分類し,RLS か MSVE の主任研究員の一人が意見の相違に判定を下した.

統計解析

 地中海料理スコアカテゴリー全体の関心の共変量分布は,カテゴリー変数をχ二乗検定を用いて検査し,連続変数は ANOVA にて検査した.それぞれの転帰の指標としてHRs と95% 信頼区間を推定するため,ベースラインから事象までの期間を時間依存性の変数として用いて COX 比例ハザードモデルを構築した.転帰事象を経験しなかった参加者は経過観察の最後に打ち切られた.我々の解析のバイアスを検査するため,我々は2値変数を作成して食事データの欠落 (n=730) を表現することにした.これを転帰の指標としてモデルを作成した.

 我々は地中海料理と血管転帰の間の関係を2つのモデルで評価した.1) 年齢,性別,人種民族,教育,中等度又は重度の身体活動,日々の総キロカロリー消費の平均値,喫煙状況(全く喫煙しない,過去に喫煙していた,現在喫煙中)で調整したもの.2) 交絡因子のような潜在的メディエーターで調整したもので,糖尿病や高血圧,高コレステロール血症や自己申告による心臓病の既往などといったモデル1における共変量を含む.解析の補足として,我々は地中海料理スコアの要素を血管転帰の指標としてモデルに入力した.500 kcal 未満や 4000 kcal より大きな自己申告は食事情報の不正確な報告となる可能性があるため,それらの参加者を除外して注意深く解析を実施した.

結果

 NOMAS の総勢 2568 名の参加者が本試験に含まれた(平均値±標準偏差で表記:68.6 ± 10.3 歳;64% が女性;55% がヒスパニック系;24% が黒人;21% が白人).例のスコアが作られた NOMAS コホート全体での各々の地中海料理スコアの要素の日々の消費量の平均値を Table 1 に示す.共変量の調整後においてさえ,食事データの有用性は転帰事象の著明な指標とはならなかった(複合血管事象におけるHR: 1.12; 95% CI: 0.92, 1.36; P = 0.28).平均観察期間の 9.0 ± 3.5 年間を通じて,518 件の突発的血管イベントが発生し,171 件の虚血性脳卒中,133 件の心筋梗塞,314 件の血管死が含まれた.

 地中海料理スコアで層別化した本試験の人口特性を Table 2 に示す.以下の特性には地中海料理パターンの消費の増加と関連があった.すなわち,適度のアルコール摂取,男性,ヒスパニック系,中等度から重度の身体活動性である.

 連続変数としてモデル化され,地中海料理スコアは次の複合転帰のリスクと逆相関していた.すなわち,虚血性脳卒中,心筋梗塞,身体活動性,摂取カロリー,喫煙 (Table 3).地中海料理スコアが五分位数にカテゴリカルにモデル化された時,指示対象としての最小五分位数(0-2点)によると,傾向検定は著明な逆の投与反応関係を示唆した (Table 3),それぞれの五分位数の効果の推定値と信頼区間の検査は,第3五分位数 (4点以上) より上では可能な閾値効果を示唆するにも関わらず.期待されたように,その傾向は減衰し,食事と血管転帰の間の偶然の経路における潜在的な媒介変数,つまり高血圧,糖尿病,高コレステロール血症と心疾患の既往を含むが,それらでの調整後は,全く著明ではなくなった.しかしながら,第3および第4五分位数(つまり4点と5点)における個人は,最小五分位数の参加者に比べて,まだ複合的血管イベントのリスクが著明に減少していた.モデル2への共変数として加えられた BMI における感度解析においては,結果的に本質的に変化しなかった(データは示していない).人種民族と地中海料理スコアとの間には血管イベントに関連する相互作用は全くみられなかった.

 地中海料理スコアと虚血性脳卒中との間には何の有意な関連もみられなかった (Table 4).点推定値は複合血管イベントより心筋梗塞においてより強力であったにも関わらず,社会人口学的特性,身体活動,個人,喫煙で調整した後の上位3つの五分位数の個人における可能性のある保護効果は第1五分位数に比べて第2五分位数においてのみ有意にリスクを減少させたのみであった (P < 0.10).点推定値は潜在的媒介変数での調整後にわずかに減衰した (Table 4).中等量又は高用量の地中海料理の消費が心筋梗塞のリスクを減少させることが示唆されているにもかかわらず(第1五分位数に比べて第2から第5五分位数),いかなる用量反応関係も証明できなかった.また,BMI を第2モデルに加えた感度分析においても,結果は本質的に変化しなかった(データは示さない).

 地中海料理スコアと血管死との間には用量反応性に逆相関がみられた (Table 4).社会人口学的特性,身体活動,個人,喫煙で調整した後では,地中海料理スコアが1点増加するごとに血管死のリスクが 9% 減少した.地中海料理スコアが最高(6-9点)の五分位数の被験者では最低(0-2点)の五分位数の被験者に比べて血管死のリスクが 33% 減少した.予想通り,この関係は第2モデルにおいては僅かに減少した (Table 4).第2モデルに BMI を共変数として加えた時,効果推定値はわずかに減衰した.血管死のリスクとは独立に相関している地中海料理スコアの要素は,中等度のアルコール消費 (P = 0.004),魚類の多量消費 (P = 0.03),豆類の大量消費 (P = 0.06) であった (Table 5).1日の消費カロリーが 500 未満または 4000 より多いと報告した 74 名の参加者を除外した後の感度解析においても結果は変化しなかった(データは示していない).

考察

 この多民族の人口に基づく前向きコホート試験において,地中海沿岸で観察されたものとより整合性のある食事パターンは,社会人口学的および血管危険因子で調整後の虚血性脳卒中,心筋梗塞,血管死の複合転帰に対して防御的であることを我々は示した.血管死との関連は有意であり,用量依存的に見えた.血管死と逆相関するように見えた地中海料理の要素はアルコール類,魚類,および豆類の消費であった.地中海料理と心筋梗塞との間には全く用量依存性の関係はなかった.しかしながら,すべての共変数で調整後には有意な相関がなかったが,地中海料理を中等度消費する人においてさえ(地中海料理スコア五分位で上から4番目の全員)心筋梗塞に対する陽性の防御的関連が示唆された.心筋梗塞に対する推定値は血管死や複合血管イベントのそれよりも強かったが,133 名の心筋梗塞を起こした人に限っては,この転帰に有意に関連する検出力は低かった.対照的に,地中海料理は虚血性脳卒中のリスクには関連がなかった.

 幾つかの試験において地中海料理の消費と全死亡率の減少,虚血性心疾患や一般的な心血管疾患による死亡の減少,またアルツハイマー病の減少との関連が示されている (12-14, 22, 25).しかしながら,米国内で行われた試験は殆どなく,我々の知る限りにおいては,我々の試験が多民族都市の標本において地中海料理と心筋梗塞および脳卒中との関連を調べた最初の試験であった.

 我々の知る限り,地中海料理と脳卒中のリスクを調査した試験は他に一つだけである(15).全員が女性で主に白人を対象にした看護師健康調査はより多くの地中海料理パターンの消費が脳卒中のリスクの中等度減少と関連していた.我々の試験と比較すると,看護師健康調査の標本数は30倍以上もあり,脳卒中の発症数は10倍あり,その結果より強い検出力と関連していた.看護師健康調査において脳卒中例が虚血性か出血性か分類される際に,虚血性脳卒中との有意な関連は観察されず,推定値の大きさは我々のそれと似ていた.我々は虚血性脳卒中に注目したが,出血性脳卒中を包含しても我々の結果は変化しなかった(データは示さない).それに加えて,非致死性症例と地中海料理との関連よりも,致死的で,ゆえにおそらくより重症の虚血性心疾患と脳卒中の症例と地中海料理との強い関連を著者は報告している(15).この知見は我々の観察と一致しており,地中海料理スコアと血管死との間には用量依存性に有意な相関が見られた.

 虚血性脳卒中が異質で小血管と大血管病変の両者を含むという事実は,我々の試験での地中海料理スコアとの関連の欠損に寄与したかもしれない.一方,心筋梗塞はもっと同質で主要な動脈硬化なのだが,心筋梗塞との間にわずかな相関が示唆された.地中海料理の大血管病変に対する効果があるか否かを定義するため将来のより大規模試験が必要であり,脳卒中のサブタイプ全体に渡る地中海料理の効果を調べる必要がある.

 地中海料理の消費の増加が心血管イベントのリスク低下に関連しているとの我々の所見は,地中海料理の順守度と血管疾患のリスクの無症状のマーカーと逆相関するというこれまでの試験と一致している.地中海料理は脂質組成を改善し (26),内皮機能を改善し (27),収縮期圧及び拡張期圧を低下させ (10),肥満を改善し (8),インスリン抵抗性を改善し (28),C 反応性蛋白 (29) や IL-6 (30) を含む炎症性マーカー濃度を低下させる.

 血管死に対して大きな効果を持つ地中海料理スコアの要素の一つはアルコールである.以前我々は次のことを示した.つまり,NOMAS において中等度のアルコール摂取は脳卒中,心筋梗塞,血管死同様に虚血性脳卒中に対して防御的であることである (19, 31).中等度のアルコール,魚類,豆類の消費はこの標本における血管死と相関する地中海料理スコア要素である.多くの試験が魚類の消費が心血管疾患死亡率を抑制する効果を示しており,それは魚類に豊富に含まれるω-3脂肪酸が寄与している (32).豆類もまたω-3脂肪酸同様蛋白質,食物繊維,葉酸に富み,豆類を食べることはコレステロール濃度を低下させることが知られている (33).

 我々は次の仮説を立てた.すなわち糖尿病,高血圧,高脂血症は地中海料理と血管転帰との関連の潜在的な中間体ではないかと.なぜならこの食事パターンはこれらの危険因子を変える可能性があるからである.地中海料理を消費することはこれらの条件の危険に影響することが示されたが,これらのいかなる条件の診断も個人の食事に影響しうる.我々の食事と危険因子におけるベースラインデータは同時に収集されたため,血管危険因子と我々の参加者の食習慣との一時的な関連は知られておらず,地中海料理と,これらの危険因子を含むモデルからの血管イベントのリスクとの間に関連があるとみなされていると慎重に結論付けられるべきである.しかしながら,我々の所見はこれらの危険因子が調整された時,幾つかの関連が減衰して仲介の可能性を支持していた.

 地中海料理と人種民族との間では血管転帰との関連は認めなかった.おおよそ,NOMAS 参加者の半数がヒスパニック系と自己認識しており,大半がドミニカ共和国から合衆国への移民であった.全体として,NOMAS コホートのベースラインの食習慣は,他のヨーロッパやアメリカのコホート試験において研究された地中海式パターンのそれと比較しても,地中海式パターン以上の一貫性はない (15, 34, 35).特に,果実類,野菜類,魚類,穀類の消費は他のコホートと比較して我々のコホートでは少なかった.それ故,NOMAS コホートの食事パターンは正確な地中海料理(すなわち,地中海沿岸地域に住む人口の食事パターン)を反映していない可能性がある.例えば,一価不飽和脂肪酸の消費は,大部分がオリーブオイルに由来するのだが,我々の人口においては地中海沿岸の人口に比較してかなり低い.この文脈において,我々の試験の結果は,個人が地中海料理を控えめに遵守することさえ(その食習慣が本来の地中海料理とかけ離れた食習慣の被験者と比較すれば)血管転帰に対して防御している可能性がある.しかしながら,我々の所見は次の点も示唆している.すなわち NOMAS コホートにおいて消費された地中海料理の用量は最上位の五分位においてさえ有意に高いとはいえないかも知れず,また防御完全に調整したモデルにおける血管イベントとの強力な関連を検出していない可能性がある.特に有限の数のイベント特異的なエンドポイントに共役した際には.

 民族的に多様な人口であることに加えて,試験の強度は高い追跡率を有し,他の確立された血管疾患の危険因子における包括的データを有していた.しかしながら,我々の試験には幾つかの限界があった.第一に,我々の人口で発生した虚血性脳卒中事故の数と心筋梗塞の数が相対的に小さかったため,地中海料理スコアとの有意相関の検出力を制限した.我々はベースラインでの食事頻度を計測したに過ぎず,故に参加者は,計測された転帰が発生する前に食事を変更したかもしれない.しかし,食事パターンは他の人口ベースの試験においては安定していることが判明している (13).加えて,地中海料理スコアを計算するために有効かつ信頼出来る食事頻度アンケート (21, 36, 37) を使用しているにもかかわらず,食習慣の無作為な誤判別と recall bias の可能性が残る.しかし,殆どの大規模試験では似たような方法に頼っている.我々は先に述べた文献で広く用いられている地中海料理スコアの計算方法を用いたが,しかしこれもまた限界がある.というのは,その点数はコホートと性別特異的な食品の9つのカテゴリーの中央値に依存しているからであり,より完全な用量依存性の関係の試験には容易に可能にはならないからである.測定された変数又は未測定の変数による潜在的な交絡の残留が常に存在するにもかかわらず,多くの潜在的交絡因子による調整後も相関が持続していることは,このバイアスのフォームは,観察された関連を考慮していないように見えることを示唆している.最後に我々は欠落した食事情報のために選択バイアスの可能性を試験し,欠落した食事情報は転帰事象のリスクには無関係であることを示した.これは選択バイアスが我々の試験の結論には影響しないことを示唆している.

結論として,我々はより大規模な地中海料理の消費と血管イベント,特に血管死のリスクの軽減との関係を示した.地中海料理と虚血性脳卒中との相関を支持するエビデンスは得られなかった.我々の知る限り,男性と女性,同じ国に住む多民族人口を含めた試験としては,本試験は合衆国における最初のものである.我々の結果は,理想的な心血管の健康を達成するという2020 AHA の新しい目標を支持するものである.地中海料理パターンは AHA の推奨する食事の幾つかの方法に合致するからである.地中海料理と血管疾患,特に脳卒中との関連を解明するにはより大規模な人口における追加試験が必要である.致死的事象と非致死的事象の相対関係はさらなる試験に値する.

メタボリック症候群における内皮機能障害と血管炎症マーカーに対する地中海式料理の影響

 地中海式料理がいかなる機序でメタボリック症候群に関連する炎症状態を減少させるかについては分かっていませんが,白血球活性化と内皮機能障害を通じて,CRP が直接病変形成に関与している可能性が示唆されています.

 考察の文中の丸括弧は参考文献の番号です.和訳の瑕疵の責任は私にありますが,この記事の利用に関する責任は各自でお願いします.

メタボリック症候群における内皮機能障害と血管炎症マーカーに対する地中海式料理の影響

無作為化試験

Katherine Esposito, MD; Raffaele Marfella, MD, PhD; Miryam Ciotola, MD; Carmen Di Palo, MD; Francesco Giugliano, MD; Giovanni Giugliano, MD; Massimo D’Armiento, MD; Francesco D’Andrea, MD; Dario Giugliano, MD, PhD

背景 メタボリック症候群は心血管疾患を減少させる食事療法の目標として同定されている.しかしながら,メタボリック症候群の疫学において食事の役割はほとんど理解されていない.

対象 メタボリック症候群患者における地中海式料理の内皮機能と血管炎症性マーカーに対する影響を評価すること.

デザイン,設定,患者 無作為化した単盲検試験が 2001 年6月から 2004年1月まで大学病院において成人治療パネル III によってメタボリック症候群を有すると同定された患者180 名(男性 99 名,女性 81 名)を対象に実施された.

介入 介入群患者 (n=90) は地中海式料理に従うよう指示され,全粒穀物,果実類,野菜類,ナッツ類,オリーブオイルの日々の消費をどうやって増やすかについての詳細な指導を受けた.対照群患者 (n=90) は慎重な食事(炭水化物 50% – 60%; 蛋白質 15% – 20%; 総脂質 30% 未満)に従った.

主な転帰の指標 栄養摂取.血圧とL-アルギニンに対する血小板凝集反応としての内皮機能スコア.脂質とグルコースの変数.インスリン感受性.循環血漿中の高感度C反応性蛋白 (hs-CRP)とインターロイキン6 (IL-6), インターロイキン7 (IL-7), インターロイキン 18 (IL-18).

結果 2年後,地中海式料理に従った患者では一価不飽和脂肪酸,多価不飽和脂肪酸,食物繊維,ω-3脂肪酸に対するω-6脂肪酸の比率などにおいてより豊富に食物を消費していた.あらゆる果実類,野菜類,ナッツ類 (274 g/d) の摂取,全粒穀物 (103 g/d), オリーブオイルの消費 (8 g/d) もまた介入群では有意に高かった (P < 0.001).身体活動レベルは両群ともに 60% 近く増加していたが,群間での差異は認められなかった (P = 0.22).体重の平均値と標準偏差はそれぞれ – 4.0 [1.1] kg, - 1.2 [0.6] kgであり,対照群よりも介入群でより減少していた (P < 0.001).対象食事群と比較して,介入食消費群では高感度 CRP (P = 0.01), IL-6 (P = 0.04), IL-7 (P = 0.4), IL-18 (P = 0.3) が低下しており,インスリン抵抗性も減少していた (P < 0.001).内皮機能スコア (mean [SD]) は介入群では改善が見られた (+ 1.9 [0.6]; P < 0.001) が,対照群では変化しないまま (+ 0.2 [0.2]; P = 0.33) であった.2年間の経過観察時点で介入群の患者でメタボリック症候群の基準を満たす患者は40 名に過ぎなかったが,対照群患者では 78 名であった (P < 0.001).

結論 地中海式料理はメタボリック症候群とそれに関連する心血管危険因子の有病率を減少させる効果がある可能性がある.

JAMA. 2004; 292: 1440-1446

 メタボリック症候群は心血管疾患と2型糖尿病のリスクを増やす因子の集合からなる.最近の推定では合衆国においてメタボリック症候群は一般的であるとされ,成人人口の 24% が罹患していると推定されている.その臨床的同定方法は腹部肥満の腹囲測定,動脈硬化性脂質異常,血圧上昇,耐糖能異常に基づいている.本症候群の成因は大きすぎて不明だが,恐らく遺伝因子,代謝因子,食事を含む環境因子の複雑な相互作用を表している.最近の幾つかの研究では,炎症状態もまたメタボリック症候群の要素の一つであると示されている.さらに,低レベルの炎症が内皮機能障害に関連していることのエビデンスが蓄積しつつある.

 食事はメタボリック症候群の個々の特徴に繋がる観点であるにもかかわらず,本症候群の原因としての食事の役割は殆ど理解されておらず,少数の観察研究がなされているに過ぎない.成人治療パネル III のメタボリック症候群を有する患者への推奨は一般的な食事の推奨からなる.最近アメリカ心臓病学会の科学諮問委員会は,地中海式料理が心血管疾患の進展に対して印象的な効果を有すると述べた.

 本研究の目的は,メタボリック症候群患者において内皮機能障害と血管炎症とに対する地中海式料理の効果を評価することであった.我々は L-アルギニン,つまり一酸化窒素の自然の前駆体なのだが,これに対する血管の反応を評価することで内皮機能を研究した.更に我々は例のメタボリック症候群患者の低レベルの炎症状態を,循環血漿中の高感度 CRP の他 IL-6, IL-7, IL-18 を測定することで特徴づけた.これらの前炎症インターロイキンは恐らく血栓性の心血管イベントに関連しているか (16, 17),プラークの不安定化への関与を示唆されている (18).そこで我々は,植物性化学物質,抗酸化剤,αリノレン酸,食物繊維に富む食品の消費を増やすようにデザインした地中海式料理の無作為化試験を行った.

方法

 2001 年6月から 2004 年1月までの間に,イタリアのナプレスのナプレス第2大学代謝疾病部門の外来に通院する男女から参加者を採用した.本研究の参加者は坐位勝ち(1週間の身体運動が1時間未満)で過去6ヶ月以内に体重減少プログラムに参加した証拠がなく,安定した体重 (+- 1 kg) を維持している人々であった.栄養の研究に従事している参加者は一人もいなかった.各々の患者は完全な個人的健康状態と病歴に関するアンケートを受けた.これはスクリーニングツールとして役立った.

 本試験に登録するには患者は以下に示すメタボリック症候群の基準の3つ以上を有していなければならなかった.成人治療パネル III に定義されているが,(1) 内臓脂肪(ウエスト周囲径が男性で 102 cm より大,女性で 88 cm より大と定義).(2) 血清 HDL コレステロール低値(男性で 40 mg/dL 未満,女性で 50 mg/dL 未満).(3) 高中性脂肪血症(中性脂肪値が 150 mg/dL 以上).(4) 血圧上昇(130/85 mm Hg 以上).(5) 耐糖能異常(空腹時血糖値 110 mg/dL 以上).心血管疾患を有しているか,精神的問題があるか,アルコール中毒の既往(過去1年以内に1週間に 500 g 以上のアルコール消費)があるか,喫煙歴があるか,何らかの薬物を服用している患者は除外した.本試験はナプレス第2大学倫理委員会が承認し,全患者が書面で同意した.

 患者はコンピュータで発生させた乱数列を用いて介入群か対照群のいずれかに無作為に割り付けられた (Figure 1).インフォームドコンセントが済んだ後,中央の安全な場所で割付を行い,密封したフォルダの中に隠蔽した.訪問をスケジュールした看護師は無作為化リストに関与しなかった.しかしながら,介入に関与した職員は割付の群に注意せざるを得なかった.そこで,本試験は一部盲検化したものとなった.検査部門の職員は患者の群割付を知らなかった.

 例の介入食を消費する患者は伝統料理の有用性について詳細な指導を受けた.月に一回の少人数でのセッションを経て,介入群患者は食事カロリーを(必要があれば)減らすこと,個人の目標を設定すること,食事日記を付けてセルフモニタリングを行うことの教育を受けた.行動精神カウンセリングも提供された. 3日間の食事記録に基づいて個々の患者に合わせて食事指導を調整した.推奨される食事療法の成分は以下の通り.炭水化物 50% から 60%.蛋白質 15% から 20%.総脂質 30% 未満.飽和脂肪酸 10% 未満.コレステロール消費は1日 300 mg 未満.さらに患者は1日ごとに最低 250 g から 300 g の果実類,125 g から 150 g の野菜類,25 g から 50 g のクルミを消費するように指導された.加えて1日ごとに 400 g の全粒穀物(マメ,コメ,トウモロコシ,小麦)を消費すること,オリーブオイルの消費を増やすことを推奨された.患者は24ヶ月間プログラムに従事し,1年目は毎月,2年目は2ヶ月ごとに栄養セッションを開催した.プログラムへの準拠は会合への出席と食事日記の徹底によって評価した.

 対照食事を消費する患者は一般に口頭又は文書で,ベースラインにおいて健康的な食品の選択についての情報を受けその後訪問を受けたが,個人的なプログラムの提供は受けなかった.しかしながら,一般的に推奨される食事の主要栄養素の組成は介入群のそれと近似していた(炭水化物 50% から 60%,蛋白質 15% から 20%,総脂質 30% 未満).さらに対照群の患者は2年間の試験期間中,2ヶ月ごとに個人的に勉強会にも参加した.両群の全患者は身体活動レベルを増やす手引きを受け取り,1日に30分間,主にウォーキングだがそれだけでなく水泳や有酸素球技(サッカーなど)を行った.

 身長と体重は参加者が軽装で靴を脱いだ状態で Seca 200 体重計とそれに付属する身長測定器で測定した.24時間の栄養摂取量は食品成分表と患者の週ごとの食事記録から計算した.食事の順守と運動活動を評価するため,すべての参加者に3日間の完全な記録,つまり食事記録および就業中の身体活動,家事の身体活動,余暇時間の身体活動の完全な記録を求めた.食事は標準計量カップとスプーンおよび重量の近似ダイアグラムで計量した.

内皮機能

 内皮機能は前述したように L-アルギニンテストにより評価した.手短に述べると,血圧と心拍数の自動測定装置 (Omheda 2300; Finalpres, Englewood, Calif) にかけた後,血管内に 3g のL-アルギニン(L-アルギニン塩化物の 30% 溶液 10 mL),これは一酸化窒素の自然前駆体であるが,これを 60 秒以内に急速静注した.L-アルギニン静注前と投与 10 分後の 1.25 microM アデノシン2リン酸に対する血圧と血小板凝集反応を測定した.

 我々は両者の反応を加算した点数を発展させた.血圧に関しては1点を平均血圧 2 mm Hg 未満の反応とし,2点2 mm Hgと3 mm Hgの間,3点を3 mm Hg と 4 mm Hg の間,4点を 4 mm Hg と 5 mm Hg の間,5点を 5 mm Hg より大とした.血小板凝集反応については1点を 2.5% 未満の反応とし,2点を 2.5% と 5% の間,3点を 5% と7.5% の間,4点を 7.5% と 10% の間,5点を 10% より大とした.我々の研究においては,血圧と血小板凝集反応の平均値(標準偏差)は健康な男女(それぞれn = 50)の対照群において L-アルギニン静注に従って(基準値と10 分値との差異),- 6.5 (1.5) mm Hg, – 13% (3%) それぞれ低下した.その対応する最大点数は 10 点であった.

検査解析

 空腹時のインスリン感受性の推定値は恒常性モデル評価 (HOMA) により評価され,以下の式で計算する.空腹時血漿グルコース濃度 (mmol/L) ×空腹時血清インスリン値 (microU/mL) / 25.これはMatthews らの提唱による.その方法では HOMA 点数が高いことはインスリン感受性が低い(インスリン抵抗性である)ことを示している.病院の臨床検査室において血清総コレステロール値,HDL コレステロール値,中性脂肪,グルコース濃度を測定した.血漿インスリン濃度はラジオイムノアッセイ法により測定した (Ares, Serono, Italy).

 サイトカインと高感度 CRP 値の血清標本は測定まで – 80 度で保管した.IL-6, IL-7, IL-18 の血清濃度は高感度の定量的サンドイッチ酵素アッセイ法 (Quantikine HS, R&D Systems, Minneapolis, Minn) で重複して決定した.高感度 CRP は Behring Nephelometer 2 (Dade Behring, Marburg, Germany) を用いて免疫比濁法により測定した.我々の研究室では,健康な男女 50 名ずつ計 100 名の四分位範囲における中央値は以下のとおり.高感度 CRP 0.7 mg/L (0.2 – 3.2 mg/L), IL-6 2.1 pg/mL (0.3 – 5.2 pg/mL), IL-7 1.8 pg/mL (0.5 – 5.2 pg/mL), IL-18 129 pg/mL (50 – 275 pg/mL).

統計解析

 データは他に記述がなければ平均値(標準偏差)として記述する.データを治療目的により解析した.我々は連続変数にはt検定を,高感度 CRP, IL-6, IL-7, IL-18 にはWilcoxon テストを用いてベースライン値を評価した.我々は全患者をメタボリック症候群の3,4,5の要素数で分類し,高感度 CRP 中央値と HOMA 平均値との関係のエビデンスについて評価し,これらの群にまたがる内皮機能スコアを Jonckheere – Terpstra test を用いて評価した.我々は危険因子と栄養摂取量を比較した,経過観察期間の終了時点での値に基くテストを用いた2年後に,ベースラインからの差異に基く t-test を用いて.経過観察期間中に脱落した患者を除いた解析の結果は,脱落した患者の最後に得られた記録を含めてもさほど変化しなかった.それ故全患者のデータを含めて無作為化として表記した.Spearman 順位相関係数を用いてメタボリック症候群の変数とサイトカイン値の関連を定量化した.HOMA と内皮機能点数における治療効果,サイトカイン値,メタボリック症候群のそれぞれの要素は対応のあるt検定と Wilcoxon matched test を用いて体重変化を調整した後に検定した.治療後のメタボリック症候群を有する2群における参加者の割合を比較するのにχ二乗検定を用いた.P < 0.05 を統計的有意とみなした.すべての解析は SPSS 9.0 (SPSS inc, Chicago, Ill) を用いて実施した.

結果

 180 名の患者を介入群 (n = 90) か対照群 (n = 90) に無作為割付した (Figure 1).両群ともメタボリック症候群の要素数を含めて同等であった (Table 1).メタボリック症候群の要素数が増えるにつれて高感度 CRP 値と HOMA 点数が増加していた.一方で,メタボリック症候群の要素数と内皮機能スコアの間には逆相関が見られた (すべての傾向において P < 0.001) (Figure 1).Spearman 順位相関係数によると,以下の関連は否定的であった.つまり内皮機能スコアとウエスト周囲径 (r = – 0.30, P = 0.01), 高感度 CRP (r = – 0.33, P = 0.01), HOMA スコア (r = – 0.24, P = 0.02),IL-6 (r = – 0.21, P = 0.02).

 2年間の経過観察後,介入群の8名と対照群の8名が試験から脱落した.脱落者は全員観察開始後 24 週以降であった.介入群の脱落者は 24 週の観察期間後体重減少を認めており,生活習慣の変更を遵守していたことを示唆していた.

 ベースラインのデータは2群間での栄養摂取量に重要な差異がないことを示している (Table 2).2年後,介入群では対照群と比較して以下の傾向が見られた.すなわち一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸からなるカロリー摂取の増加,食物繊維摂取の増加,ω-3 脂肪酸に対するω-6 脂肪酸摂取量の減少,エネルギー・飽和脂肪酸・コレステロールの減少.果実類,野菜類,ナッツ類,全粒穀物の摂取量とオリーブオイルの消費量は介入群において著明に増加していた (Table 2).運動量は両群ともに増加していた(介入群 48 [SD, 10] 分間/週から 84 [SD, 36] 分間/週,P < 0.001.対照群 51 [SD, 9] 分間/週から 81 [SD, 38] 分間/週,P < 0.001).両群間での差異は認めなかった (P = 0.22).

 2年後,介入群の患者は体重,BMI, ウエスト周囲径,HOMA スコア,血圧,血糖値,インスリン値,総コレステロール値,中性脂肪値の著明な減少を認め,HDL コレステロール値,対照群において記録されたすべての値において著明な増加を認めた (Table 3).性別での差異は認めなかった.IL-6, IL-7, IL-18, 高感度 CRP の介入群での血清濃度は対照群のそれと比較して著明に減少していた.内皮機能スコアは介入群においては改善を認めたが対照群では変化しなかった.内皮機能スコアと高感度 CRP 値(r = – 0.36, P < 0.01) および HOMA スコア (r = - 0.31, P = 0.01) の間には負の相関が見られた.

 2年間の観察期間後の時点において介入群の 60 名の参加者はメタボリック症候群の要素数の減少を経験し (Table 3), 40 名がメタボリック症候群のままと分類されたに過ぎなかった.対照群においては大きく様相は異なり,78 名の患者が未だメタボリック症候群を有していると分類された (P < 0.001).体重変化の調整前のデータはメタボリック症候群の要素数の著明な減少を示し,2年間の観察期間後の時点では介入群で 30 名,対照群で 73 名がメタボリック症候群を有していると分類された.

コメント

 本試験においては,メタボリック症候群を有する患者による地中海式料理の消費は内皮機能の改善と全身血管炎症マーカーの著明な減少に関係していた.更に,介入食に従事した参加者はメタボリック症候群の要素数の減少を認め,全体のメタボリック症候群の有病率は約半分に減少した.体重でデータを調整したため,介入後のメタボリック症候群の全体の有病率の減少は保守的な測定を表す.これらの所見は共に地中海式料理がメタボリック症候群の治療に安全な戦略であり心血管リスクの減少に役立つことを示唆している.

 メタボリック症候群の個々の要素に対する現在のガイドラインは生活習慣の修飾(体重の減量と運動)を一次治療として強調しており,一方で心血管疾患ガイドラインが指示しない限り薬物治療は二次治療とみなされている (22).我々の試験では,介入食の効果は体重変化には控えめな関係を示していたが,CRP 値には効果がなく,対照群において運動を増量しても変化がなかったのと同様であった (23).体重変化で結果を調整したため,我々の所見は,体重の同時変化は大きく独立しており,地中海式料理はメタボリック症候群に関連する炎症状態と内皮機能障害を減少させる役割を演じているかもしれないことを示唆している.

 地中海式料理がいかなる機序でメタボリック症候群に関連する炎症状態を減少させるかについては分かっていない.主要栄養素の摂取が酸化ストレス物質を生じて前炎症状態に至る (24).この興味深いエビデンスは,健康な個人が高脂肪食を食べた後,抗酸化ビタミン (25, 26) や食物の抗酸化物質 (20) が一過性の内皮機能障害を改善する可能性により支持されている.更に,食事中の食物繊維含有の修飾がサイトカイン環境に影響を及ぼす可能性がある.高炭水化物食における食物繊維含有の上昇 (4.5 g から 16.8 g)は,健康な人においても2型糖尿病患者においても,循環血漿中の IL-18 値の減少に関係する (27).食物繊維が抗炎症作用を有する可能性があるため,最低でも腸管機能においては,介入食における食物繊維の含有は,最終的には他の幾つかの抗酸化機能を有する要素に拡大したとしても,主要栄養素の消化後に一過性に発生する酸化ストレス物質に影響を及ぼす可能性がある.ω-3 脂肪酸の抗炎症作用が示唆されたが,この効果の大部分はサプリメントの使用で見られるものである.

 我々の結果では,メタボリック症候群の要素数が増えると高感度 CRP が直線的に上昇し,内皮機能スコアが直線的に障害を示した.このことから以下のことが推測される.CRP は IL-6 の影響下に肝臓で産生される (9) が,メタボリック症候群に関する補助的なサイトカイン環境と内皮機能障害の間を橋渡しするものであるのかもしれない.強力なリスクマーカーであることに加えて,最近の知見では CRP は白血球活性化と内皮機能障害を通じて,直接病変形成に関与している可能性を示唆している (30, 31).更に,炎症反応の増加がインスリン抵抗性と代償性の高インスリン血症に至ることを示唆しており,炎症性サイトカインは脂肪細胞から放出され,重要な役割の大部分に起因している (9).代わりに,インスリン抵抗性は,インスリン抵抗状態におけるインスリンの抗炎症効果を減弱させた結果としての高サイトカイン産生に責任があるのかもしれない (32).機序のいかんに関わらず,メタボリック症候群に伴う前炎症状態はインスリン抵抗性と内皮機能障害に関連しており,炎症と代謝過程の間の接続を提供しており,血管機能にとって極めて有害なものである.

 我々の試験には1つの限界がある.個々の食事の要素が観察された変化を考慮できるのか否か,または代謝性危険因子がすべての食事変化の結果なのか否かについて定義できないことである.本試験のような複数の食事介入にもかかわらず,各々の介入を個別に評価することは困難であり,食事全般の手法は心血管疾患の予防に臨床的に有効と強調されてきた (33).Lyon Heart Study (34) は食事療法が心血管疾患を有する個人において致死的または非致死的心血管イベントの現象に役立つことを示した.Singh らは既に冠動脈疾患を有するかその高リスクの患者 1000 名を対象にインド地中海料理を試験した (35).対象食事群と比較して,介入食群では致死的心筋梗塞が 1/3 に減少し,心臓由来の突然死の割合が 2/3 に減少した.ギリシャにおける健康な成人 22,043 名を含む人口ベースの研究においては,伝統的地中海料理の順守は総死亡率の低さ,冠動脈疾患による死亡率の低さおよび癌による死亡率の低さと有意な関係がある (36).地中海料理スコアと死亡率の間には堅牢な逆相関があるにも関わらず,個々の食事の要素には目立った関連は見られない.そのため,部分の総和と言うよりも,多数の食事の要素の(相乗的,相互作用的な)累積効果が実質的なのかもしれないと示唆される.

 本試験の結果は最初の実証を示したもので,我々の知識にとって,全粒穀物や果実類,野菜類,豆類,クルミ,そしてオリーブオイルに富む地中海料理はメタボリック症候群の有病率とそれに関連ずる心血管リスクを共に減少させるかもしれない.そのような食事の心血管保護効果の1つの機序は,メタボリック症候群に関連する低レベルの炎症状態の軽減を通しているのかもしれない.体重減少がメタボリック症候群の治療の礎石として依然重要であることに違いはないものの,公衆衛生の視点からここにあの調査に似た食事の導入は,特に体重を減らせない人にとっては,心血管リスクに更なる利益をもたらすかも知れない.