ビタミンB2

 ビタミン B2 の化学名はリボフラビンで食事摂取基準はシボフラビン量として設定されました.ビタミン B2 にリン酸が一つ結合したフラビンモノヌクレオチド (FMN) それに AMP が結合したフラビンアデニンジヌクレオチド (FAD) は共にビタミン B2 に消化されて吸収されるため,ビタミン B2 と当モルの活性を示します.

 ビタミン B2 は補酵素 FMN および FAD としてエネルギー代謝や物質代謝に関わっています.TCA 回路,電子伝達系,脂肪酸の β 酸化などのエネルギー代謝に関わっており,ビタミン B 2 が欠乏すると成長抑制,口内炎,口角炎,舌炎,脂漏性皮膚炎を引き起こします.

 食品中のリボフラビンは大半が FAD や FMN として存在しており,調理・胃酸の影響によりFAD, FMN は遊離します.遊離した FAD, FMN は小腸粘膜の FMN フォスファターゼおよび FAD ピロフォスファターゼにより加水分解されてリボフラビンになり,小腸上皮細胞から能動輸送により吸収されます.日本人における食事中のビタミン B2 の相対生体利用率は 64 % と報告されています.

 ビタミン B2 の必要量を求める方法には,欠乏症からの回復に必要な最小量と,摂取量と尿中排泄量との関係式による変曲点とがありますが,両者の値は異なります.ここでは水溶性ビタミンは必要量を満たすまでは尿中に排泄されず,必要量を超えると急激に尿中排泄量が増大するとの考えから,変曲点を必要量とすることとします.摂取量が 1.1 mg/d を超えると摂取量に依存して尿中ビタミン B2 排泄量が増大する (pdf)ことから,これを必要量と考えます.

成人・小児の推定平均必要量・推奨量

 ビタミン B1 と同じく,尿中にビタミン B2 の排泄量が増加し始める最小摂取量を推定平均必要量としました.実験時のエネルギー摂取量が 2,200 kcal/d であったため,1-69 歳におけるエネルギー摂取量あたりの推定平均必要量を算定するための参照値は 0.50 mg/1,000 kcal です.この参照値に年齢区分ごとの推定エネルギー必要量を乗じて推定平均必要量を算定しました.推奨量は,推定平均必要量に推奨量算定係数 1.2 を乗じました.

妊婦の付加量の推定平均必要量・推奨量

 妊婦の付加量はビタミン B2 がエネルギー要求量に応じて増大することから算定しました.妊娠によるエネルギー付加量は初期で 50 kcal/d 中期で 250 kcal/d, 後期で 450 kcal/d ですが,これらに推定平均必要量の参照値 0.50 mg/1,000 kcal を乗じると初期は 0.03 mg/d 中期は 0.13 mg/d, 後期は 0.23 mg/d となります.しかし妊娠期は個人によりエネルギー要求量が異なり,妊娠中は特に代謝が亢進するため,妊娠後期の値を全妊娠期間の必要量としました.妊婦の付加量の推定平均必要量は丸めて 0.2 mg/d とし,推奨量は 0.3 mg/d としました.

授乳婦の付加量の推定平均必要量・推奨量

 授乳婦の付加量は,母乳中の濃度 0.40 mg/L に泌乳量 0.78 L/d を乗じ,相対生体利用率 60 % で除して算出し,0.5 mg/d としました.

乳児の目安量

 0-5 ヶ月児の乳児の目安量は母乳中の濃度 0.40 mg/L に基準哺乳量 0.78 L/d を乗じて 0.31 mg/d となり,丸めて 0.3 mg/d としました.6-11 ヶ月児の目安量は 0.4 mg/d としました.

 リボフラビンは過剰量が吸収されても余剰は速やかに尿中に排泄され過剰摂取による影響を受けにくいため,耐用上限量は設定しませんでした.

ビタミン B2 の食事摂取基準 (mg/d) (2015 年版)
性別 男性 女性
年齢 推定平均必要量 推奨量 目安量 推定平均必要量 推奨量 目安量
0-5 M 0.3 0.3
6-11 M 0.4 0.4
1-2 0.5 0.6 0.5 0.5
3-5 0.7 0.8 0.6 0.8
6-7 0.8 0.9 0.7 0.9
8-9 0.9 1.1 0.9 1.0
10-11 1.1 1.4 1.1 1.3
12-14 1.3 1.6 1.2 1.4
15-17 1.4 1.7 1.2 1.4
18-29 1.3 1.6 1.0 1.2
30-49 1.3 1.6 1.0 1.2
50-69 1.2 1.5 1.0 1.1
70- 1.1 1.3 0.9 1.1
妊婦付加量 0.2 0.3
授乳婦付加量 0.3 0.6
ビタミン B2 の食事摂取基準 (mg/d) (2010 年版)
性別 男性 女性
年齢 推定平均必要量 推奨量 目安量 推定平均必要量 推奨量 目安量
0-5 M 0.3 0.3
6-11 M 0.4 0.4
1-2 0.5 0.6 0.5 0.5
3-5 0.7 0.8 0.6 0.8
6-7 0.8 0.9 0.7 0.9
8-9 0.9 1.1 0.9 1.0
10-11 1.1 1.4 1.0 1.2
12-14 1.3 1.5 1.1 1.4
15-17 1.4 1.7 1.1 1.4
18-29 1.3 1.6 1.0 1.2
30-49 1.3 1.6 1.0 1.2
50-69 1.2 1.5 1.0 1.2
70- 1.1 1.3 0.9 1.1
妊娠初期付加量 0.0 0.0
妊娠中期付加量 0.1 0.2
妊娠後期付加量 0.2 0.3
授乳婦付加量 0.3 0.4

参照:
日本人の食事摂取基準(2015 年版)水溶性ビタミン (pdf)
日本人の食事摂取基準(2010 年版)ビタミン B2 (pdf)

ビタミンB1

 ビタミン B1 の化学名はチアミンといいます.食事摂取基準ではチアミン塩酸塩量として設定しました.ビタミン B1 はグルコース代謝と分枝アミノ酸代謝に関与しており,欠乏により脚気,ウェルニッケ・コルサコフ症候群を起こします.ビタミン B1 過剰は頭痛,苛立ち,不眠,速脈,脆弱化,接触皮膚炎,痒みなどを起こします.

 食品中のビタミン B1 はチアミンジリン酸 (TDP) として酵素たんぱく質と結合して存在しています.食品が調理加工され胃酸のもとで大部分の TDP から酵素たんぱく質が遊離し,消化管内で加水分解されてチアミンとなり,小腸で吸収されます.ビタミン B1 の相対生体利用率は 60 % と報告されています.

 成人および小児について,ビタミン B1 の必要量を摂取量と尿中排泄量との関係式における変曲点から求めました.一般的に,水溶性ビタミンは必要量を超えると尿中に排泄されるようになります.尿中にビタミン B1 排泄量が増加し始める摂取量を推定平均必要量としました.18 ヶ国から報告されたデータをメタ解析すると,チアミンとして 0.35 mg/1,000 kcal, チアミン塩酸塩として 0.45 mg/1,000 kcal となります.この値を 1-69 歳の推定平均必要量算定の参照値とし,推定エネルギー必要量を乗じて推定平均必要量としました.推奨量は推定平均必要量に推奨量算定係数 1.2 を乗じて設定しました.

 妊娠期のエネルギー要求量は個人により異なり,代謝が亢進するため,妊娠後期で算定した付加量 0.2 mg/d を妊娠前期・中期にも適用しました.

 授乳婦の付加量については母乳中の濃度 0.13 mg/L に泌乳量 0.78 L/d を乗じ,相対生体利用率 60 % で除して 0.169 mg/d となり,丸めて 0.2 mg/d を目安量としました.

 0-5 ヶ月児については母乳中の濃度 0.13 mg/L に基準哺乳量 0.78 L/d を乗じて 0.10 mg/d としました.6-11 ヶ月児については 0-5 ヶ月児からの外挿値と成人からの外挿値との平均値を丸め目安量としました.

 チアミンを大量摂取した場合の臨床症状の報告はあるものの,耐用上限量を設定するに足る報告が十分でなく,設定しませんでした.

ビタミン B1 の食事摂取基準 (mg/d) (2015 年版)
性別 男性 女性
年齢 推定平均必要量 推奨量 目安量 推定平均必要量 推奨量 目安量
0-5 M 0.1 0.1
6-11 M 0.2 0.2
1-2 0.4 0.5 0.4 0.5
3-5 0.6 0.7 0.6 0.7
6-7 0.7 0.8 0.7 0.8
8-9 0.8 1.0 0.8 0.9
10-11 1.0 1.2 0.9 1.1
12-14 1.2 1.4 1.1 1.3
15-17 1.3 1.5 1.0 1.2
18-29 1.2 1.4 0.9 1.1
30-49 1.2 1.4 0.9 1.1
50-69 1.1 1.3 0.9 1.0
70- 1.0 1.2 0.8 0.9
妊婦付加量 0.2 0.2
授乳婦付加量 0.2 0.2
ビタミン B1 の食事摂取基準 (mg/d) (2010 年版)
性別 男性 女性
年齢 推定平均必要量 推奨量 目安量 推定平均必要量 推奨量 目安量
0-5 M 0.1 0.1
6-11 M 0.3 0.3
1-2 0.5 0.5 0.4 0.5
3-5 0.6 0.7 0.6 0.7
6-7 0.7 0.8 0.7 0.8
8-9 0.8 1.0 0.8 1.0
10-11 1.0 1.2 0.9 1.1
12-14 1.1 1.4 1.0 1.2
15-17 1.2 1.5 1.0 1.2
18-29 1.2 1.4 0.9 1.1
30-49 1.2 1.4 0.9 1.1
50-69 1.1 1.3 0.9 1.0
70- 1.0 1.2 0.8 0.9
前期妊婦付加量 0.0 0.0
中期妊婦付加量 0.1 0.1
後期妊婦婦付加量 0.2 0.2
授乳婦付加量 0.2 0.2

参照:
日本人の食事摂取基準(2015 年版)水溶性ビタミン (pdf)
日本人の食事摂取基準(2010 年版)ビタミン B1 (pdf)

ビタミンK

The Dietary Reference of vitamin K (µg/d) (2015 edition)
性別 男性 女性
年齢 目安量 目安量
0-5 M 4 4
6-11 M 7 7
1-2 60 60
3-5 70 70
6-7 85 85
8-9 100 100
10-11 120 120
12-14 150 150
15-17 160 160
18-29 150 150
30-49 150 150
50-69 150 150
70- 150 150
妊婦 150
授乳婦 150
The Dietary Reference of vitamin K (µg/d) (2010 edition)
性別 男性 女性
年齢 目安量 目安量
0-5 M 4 4
6-11 M 7 7
1-2 25 25
3-5 30 30
6-7 40 40
8-9 45 45
10-11 55 55
12-14 70 65
15-17 80 60
18-29 75 60
30-49 75 65
50-69 75 65
70- 75 65
妊婦付加量 0
授乳婦付加量 0

 栄養上重要なビタミン K は動物性食品に広く分布するメナキノン-4 (ビタミン K2)と納豆菌の産生するメナキノン-7 です.ビタミン K は肝臓でプロトロンビンや他の血液凝固因子を活性化し血液凝固を促進します.骨に存在するオステオカルシンはビタミン K 依存性たんぱく質であり,ビタミン K はこれを活性化して骨形成を調節します.ビタミン K が不足すると血液凝固が遅延しますが,通常の食生活ではビタミン K 欠乏は起こりません.

 腸内細菌によるビタミン K 産生や生体組織内でのビタミン K 合成がどの程度ヒトのビタミン K 必要量を満たしているかは分かっていませんが,生体の需要を満たすほど多くはないことは Vitamin K deficiency from dietary vitamin K restriction in humans という実験から分かっています.

 ビタミン K 欠乏症が起きると血液凝固が遅延します.臨床的には手術後,ワーファリン内服中,抗生剤の長期投与後などにビタミン K 欠乏が起こります.しかし血液凝固因子の活性化に必要なビタミン K 摂取量は分かっていません.また骨折予防のために必要なビタミン K の量は血液凝固因子活性化よりも多いと考えられています.

 日本人男性 10 名を対象にしたビタミン K 欠乏食を与えた Vitamin K deficiency from dietary vitamin K restriction in humans という研究があり,2010 年版ではそれを基にビタミン K の目安量を設定していますが,2015 年版では対象者数が少なく科学的根拠に乏しいとしています.

 平成 22 年,23 年の国民健康・栄養調査でのビタミン K 摂取量の平均値はそれぞれ 185 µg/d, 280 µg/d です.日本人においては納豆を食べているか否かでビタミン K 摂取量に差があり,Vitamin K Content of Foods and Dietary Vitamin K Intake in Japanese Young Womenという報告では納豆摂取者のビタミン K 摂取量は 336.2 ± 138.2 µg/d, 納豆非摂取者で 154.1 ± 87.8 µg/d でした.これを基に 150 µg/d を目安量と設定しています.

 高齢者においてはビタミン K の目安量を引き上げる必要があると考えられますが,報告が十分でないため目安量は成人と同じ値に設定されています.

 小児の目安量は体重比の 0.75 乗を用いて体表面積を推定する方法で外挿しています.新生児はビタミン K 欠乏に陥りやすく,出生後数日で消化管出血をきたしたり,生後 1 ヶ月で頭蓋内出血を起こすことが知られています.そのため日本においては出生後直ちにビタミン K の経口摂取が行われています.それを前提として 0-5 ヶ月児では母乳中のビタミン K 濃度 5.17 µg/L に基準哺乳量 0.78 L/d を乗じて目安量を 4 µg/d と設定しました.6-11 ヶ月児では食事摂取を考慮して 7 µg/d を目安量に設定しました.

 周産期におけるビタミン K 必要量を検討した資料はあまり存在しません.ビタミン K は胎盤を通過しにくいことから妊婦と非妊婦でビタミン K の必要量に差はないと考えられ,150 µg/d と設定しました.授乳婦においてビタミン K が不足するという報告はないため,同様に 150 µg/d と設定しました.

 ビタミン K を大量摂取しても毒性は認められていません.そのため耐用上限量は設定されていません.


日本人の食事摂取基準(2015 年版)脂溶性ビタミン (pdf)
日本人の食事摂取基準(2010 年版)ビタミン K (pdf)

ビタミンD

 アメリカ・カナダの食事摂取基準では成人のビタミン D の推奨量を 15 µg/d としています.日照による産生されるビタミン D 7.5 µg/d を差し引いた 7.5 µg/d が 1 日における必要量と考えられますが,その他にも考慮すべき要因が多数あると考えられ,2010 年版の日本人の食事摂取基準の目安量を変更するに足る根拠がなく 5.5 µg/d のままとなっています.2010 年版では平成 17 年および 18 年の国民健康・栄養調査の 50-69 歳の摂取量の中央値を基に 5.5 µg/d を目安量に設定しています.骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2011 年版では 10-20 µg/d を推奨していますが,高齢者全体に適用できるか否かは更に検討を要するとして成人と同じ 5.5 µg/d を目安量としています.

 小児についてはビタミン D 摂取量と血中濃度の比較を行った研究に乏しく,成人の目安量から体重比の 0.75 乗を用いて体表面積を外挿し小児の目安量を設定しました.

 乳児については母乳中のビタミン D 濃度から目安量を算出するのではなく,くる病防止の観点から目安量を設定しました.アメリカ小児科学会では 2003 年のガイドラインにおいてくる病防止のため 5 µg/d を設定しましたが,2008 年のガイドラインでは 10 µg/d と設定しました.2008 年のガイドラインは実現困難として 0-5 ヶ月児の目安量を 5 µg/d と設定しました.6-11 ヶ月児については十分な日照を受けられる場合 5 µg/d と設定し,十分ない日照を受けられない場合もデータが不十分なため 5 µg/d と設定しました.

 妊婦については 7.0 µg/d 以上のビタミン D 摂取量ではビタミン D 不足は認められなかったことから,目安量を 7.0 µg/d と設定しました.授乳婦については母乳中のビタミン D 濃度 3.0 µg/L に基準哺乳量 0.78 L/d を乗じて丸めを行った 2.5 µg/d を成人の目安量に加え, 8.0 µg/d としました.

 ビタミン D の食事摂取基準は 2010 年版と 2015 年版では耐用上限量が変更されています.主に成人の耐用上限量が 50 µg/d から 100 µg/d に変更されています.それに伴い,小児における耐用上限量も変更されています.ビタミン D については参考となる報告が不足しており,研究の充実が求められています.

 ビタミン D は食事から摂取されるほか,皮膚で紫外線により生成されます.ビタミン D の作用は腸管からのカルシウムとリンの吸収を促進することであり,ビタミン D が欠乏すると低カルシウム血症となります.その結果二次性副甲状腺機能亢進症となり,小児ではくる病,成人では骨軟化症,高齢者では骨粗鬆症となります.ビタミン D 過剰では高カルシウム血症,腎障害,軟組織の石灰化を引き起こします.

ビタミン D の食事摂取基準 (µg/d)(2015 年版)
性別 男性 女性
年齢 目安量 耐用上限量 目安量 耐用上限量
0-5 M 5.0 25 5.0 25
6-11 M 5.0 25 5.0 25
1-2 2.0 20 2.0 20
3-5 2.5 30 2.5 30
6-7 3.0 40 3.0 40
8-9 3.5 40 3.5 40
10-11 4.5 60 4.5 60
12-14 5.5 80 5.5 80
15-17 6.0 90 6.0 90
18-29 5.5 100 5.5 100
30-49 5.5 100 5.5 100
50-69 5.5 100 5.5 100
70- 5.5 100 5.5 100
妊婦 7.0
授乳婦 8.0
ビタミン D の食事摂取基準 (µg/d)(2010 年版)
性別 男性 女性
年齢 目安量 耐用上限量 目安量 耐用上限量
0-5 M 2.5 (5.0) 25 2.5 (5.0) 25
6-11 M 2.5 (5.0) 25 2.5 (5.0) 25
1-2 2.0 25 2.0 25
3-5 2.5 30 2.5 30
6-7 3.0 30 3.0 30
8-9 3.0 35 3.0 35
10-11 3.5 35 3.5 35
12-14 3.5 45 3.5 45
15-17 4.5 50 4.5 50
18-29 5.5 50 5.5 50
30-49 5.5 50 5.5 50
50-69 5.5 50 5.5 50
70- 5.5 50 5.5 50
妊婦付加量 1.5
授乳婦付加量 2.5

参照:
日本人の食事摂取基準(2015 年版)脂溶性ビタミン (pdf)
日本人の食事摂取基準(2010 年版)ビタミン D (pdf)

ビタミンA

 ビタミン A はレチノイドといいます.体内でビタミン A 活性を有するのはレチノール,レチナール,レチニルエステル,βカロテン,αカロテン,βクリプトキサンチンの他 50 種類のビタミン A カロテノイドですが,ここで取り扱うのはレチノール,βカロテン,αカロテンおよび βクリプトキサンチンです.ビタミン A の食事摂取基準の数値はレチノール活性当量という単位で表現します.2010 年版ではレチノール当量という単位で表現していましたが 2015 年版でも数値に変わりはありません.

 ビタミン A は網膜細胞を保護し,視細胞の光刺激反応に関わる物質です.ビタミン A が欠乏すると乳幼児では角膜乾燥症から失明に至ることがあり,成人では夜盲症になります.その他成長阻害,骨・神経系の発達抑制,上皮細胞の分化・増殖の障害,皮膚の乾燥・肥厚・角質化,免疫能の低下,粘膜上皮の乾燥による易感染性などが起こります.

ビタミン A の過剰摂取により急性期には脳脊髄圧上昇,頭痛が起こります.慢性症状として頭蓋内圧亢進,皮膚の落屑,脱毛,筋肉痛が起こります.

ビタミン A の食事摂取基準 (µg RAE/d)(2015 年版)
性別 男性 女性
年齢 推定平均必要量 推奨量 目安量 耐用上限量 推定平均必要量 推奨量 目安量 耐用上限量
0-5 M 300 600 300 600
6-11 M 400 600 400 600
1-2 300 400 600 250 350 600
3-5 350 500 700 300 400 700
6-7 300 450 900 300 400 900
8-9 350 500 1200 350 500 1200
10-11 450 600 1500 400 600 1500
12-14 550 800 2100 500 700 2100
15-17 650 900 2600 500 650 2600
18-29 600 850 2700 450 650 2700
30-49 650 900 2700 500 700 2700
50-69 600 850 2700 500 700 2700
70- 550 800 2700 450 650 2700
妊婦付加量初期 0 0
妊婦付加量中期 0 0
妊婦付加量後期 60 80
授乳婦付加量 300 450

 肝臓内ビタミン A を維持するの日必要なビタミン A の摂取量は,安定同位元素で標識したレチノイドを用いてコンパートメント解析により求めます.体重 1 kg あたりの 1 日のビタミン A 排泄量は 9.3 µg/kg/d であり,これがビタミン A の必要量となります.

 成人においては推定平均必要量は参照体重から概算して男性で 550-600 µgRAE/d, 女性で 450-500 µgRAE/d となります.推奨量は推定平均必要量に推奨量算定系数 1.4 を乗じて男性で 800-850 µgRAE/d, 女性で 650-700 µgRAE/d となります.

 小児における推定平均必要量に関する報告はありません.そのため体重比の 0.75 乗を用いて体表面積を推定して外挿し,推定平均必要量を算出しました.ただし 5 歳以下の小児に関してはビタミン A の体重 1 kg あたり 1 日の体外排出量は 18.7 µg/kg/d として推定平均必要量を算出しています.推奨量については成人同様に推定平均必要量に推奨量算定系数 1.4 を乗じて算出しました.

 妊娠期間の最後の 3 ヶ月でビタミン A の殆どが胎児に蓄積します.そのため初期および中期の付加量は 0 とし,後期の付加量を 60 µgRAE/d としました.授乳婦に関しては母乳中に分泌される量を付加することとし, 300 µgRAE/d を付加量の推定平均必要量としました.付加量の推奨量は推奨量算定系数 1.4 を乗じて 450 µgRAE/d としました.

 母乳中のビタミン A 濃度 411 µgRAE/L に基準哺乳量 0.78 L/d を乗じて丸め処理を行い 300 µgRAE/d を0-5 ヶ月児の目安量としました.6-11 ヶ月児については0-5 ヶ月児の目安量を体重比の 0.75 乗で外挿して丸め処理を行い,400 µgRAE/d を目安量としました.

 成人における耐用上限量は 2700 µgRAE/d とし,乳児では 600 µgRAE/d としました.小児については成人の耐用上限量から体重比から外挿しました.

参照:
日本人の食事摂取基準(2015 年版)脂溶性ビタミン
日本人の食事摂取基準(2010 年版)ビタミン A

その他の脂質

一価不飽和脂肪酸

 一価不飽和脂肪酸は食品から摂取される他に Δ9 不飽和酵素により飽和脂肪酸からも生合成されます.平成 22 年および 23 年の国民健康・栄養調査に基づく一価不飽和脂肪酸摂取量の日本人の中央値は男性 20.8 g/d (9.0 %E), 女性 17.3 g/d (9.5 %E) です.

 一価不飽和脂肪酸に富む食事を摂取しても LDL コレステロールは増加せず, HDL コレステロールは減少せず,中性脂肪は増加しません.炭水化物を一価不飽和脂肪酸または多価不飽和脂肪酸で置換した場合,一価不飽和脂肪酸よりも多価不飽和脂肪酸の方が LDL コレステロール低下作用は強い結果が出ています.

 一価不飽和脂肪酸と冠動脈疾患との関連は一貫していません.Seven Countries 研究は冠動脈疾患死亡リスク減少を報告していますが,Nurses’s Health 研究は関連なしと報告しています.冠動脈疾患の増加を報告しているのは Framingham 研究デンマークのコホート研究Lipid Research Clinics Prevalence Follow-Up 研究Strong Heart 研究です.その他,肥満との関連,インスリン感受性や抵抗性に関する報告がありますが結論は出ていません.

トランス脂肪酸

 工業由来のトランス脂肪酸を含む油脂を摂取すると冠動脈疾患のリスクになることが報告されています.しかし,自然界に存在するトランス脂肪酸は,乳製品や肉に含まれますが,冠動脈疾患のリスクにはなりません.平成 15 年から 19 年までの国民健康・栄養調査によると工業由来のトランス脂肪酸摂取量の中央値は男性で 0.292 g/d (0.13 %E), 女性で 0.299 g/d (0.16 %E) です.トランス脂肪酸の代表はショートニングです.

 2011 年のメタアナリシスで,工業由来のトランス脂肪酸の最大摂取群は最小摂取群に比較して冠動脈疾患の相対危険度が 1.3 倍増加することが示されています.糖尿病罹患リスクとの関連は一貫していません.トランス脂肪酸摂取量と冠動脈疾患との正相関血中 CRP 値との正相関の報告があります.

 共役リノール酸,ジアシルグリセロール,中鎖トリアシルグリセロール,植物ステロールについては疫学研究が不十分なこと,摂取量の推定が難しく検討されていません.

コレステロール

 コレステロールは体内で産生される脂質でその産生量は 12-13 mg/kg/d です.体内で産生されるコレステロールは経口摂取されるコレステロールの 3-7 倍あります.肝臓でのコレステロール産生は食事からのコレステロール摂取量により調節される負のフィードバックが働きます.

 鶏卵はコレステロール含有量が多いため,卵の摂取量と動脈硬化疾患との関連を調査した研究がいくつかあります.2013 年のメタ解析では卵の摂取量と冠動脈疾患および脳卒中罹患との関連は認められていません.日本人を対象にしたコホート研究でも卵の摂取量と虚血性心疾患や脳卒中による死亡率との関連は認められていません.JPHC 研究においても冠動脈疾患罹患との関連は認められていません

 がんとの関連についてもいくつか報告があります.NIPPON DATA 80 において女性では卵を 2 個以上摂取群では 1 個群に比較してがん死亡相対危険度は 2 倍でしたが,統計的有意ではありませんでした.その他,コレステロール摂取量と卵巣がん子宮内膜がんに正相関が認められています.肝硬変または肝臓がんのハザード比が 2.45 で有意に高いとの報告もあります.

参照:
日本人の食事摂取基準(2015 年版)脂質 (pdf)
日本人の食事摂取基準(2010 年版)脂質 (pdf)

Dietary Fiber and Risk of Coronary Heart Disease

 食物繊維摂取量と心血管疾患リスクの関係を調査したプール解析の報告です.食物繊維総量,穀物繊維,果実繊維については負の相関が見られましたが野菜繊維については有意ではありませんでした.

 ところで,この文献を参照した日本人の食事摂取基準 2015 年版では『1 日 24 g 以上の繊維摂取で心筋梗塞死亡率が低下する』と述べていましたが本文にはそのような記述はありませんでした.

Dietary Fiber and Risk of Coronary Heart Disease

A pooled Analysis of Cohort Studies

Mark A. Pereira, PhD; Eilis O’Reilly, MSc; Katarina Augustsson, PhD; Gary E. Fraser, MBChB, PhD; Uri Goldbourt, PhD; Berit L. Heitmann, PhD; Goran Hallmans, MD, PhD; Paul Knekt, PhD; Simin Liu, MD, ScD; Pirjo Pietinen, DSc; Donna Spiegelman, ScD; June Stevens, MS, PhD; Jarmo Virtamo, MD; Walter C. Willett, MD; Alberto Ascherio, MD

要約

背景:食物繊維摂取量と心血管疾患リスクを比較した研究はこれまで殆どなく,食物繊維の種類(穀物,果実または野菜)の比較や性に特異的な結果を含むものに留まっていた.本試験の目的は食物繊維とその種類と心血管疾患リスクとのプール解析を行うことであった.

方法:我々は米国とヨーロッパの前向きコホート試験10件のオリジナルデータを解析し,食物繊維摂取量と心血管疾患の関連を推定した.

結果:91,058 名の男性および 245,186 名の女性を 6 から 10 年以上の期間経過観察し,5,249 件の冠動脈症例,2,011 名の冠動脈疾患死亡が発生した.人口学的因子,体格指数,生活スタイル因子での調整後では,エネルギー調整および食物繊維総量の測定誤差に関して 10 g/day 増加するごとに全心血管イベントの 14 % 減少と相関しており,相対リスクは 0.86, 95 % 信頼区間は0.78-0.96 であった.また冠動脈疾患死亡の 27 % 減少と相関しており相対リスクは 0.73, 95 % 信頼区間は 0.61-0.87 であった.穀物,果実,野菜の食物繊維摂取量と全心血管疾患イベント発生との関連においては,10 g/day 増加ごとにそれぞれ相対リスク 0.90, 95 % 信頼区間 0.77-1.07, 相対リスク 0.84, 95 % 信頼区間 0.70-0.99, 相対リスク 1.00, 95 % 信頼区間 0.88-1.13 であった.また死亡との関連では相対リスク 0.75, 95 % 信頼区間 0.63-0.91, 相対リスク 0.70, 95 % 信頼区間 0.55-0.89, 相対リスク 1.00, 95 % 信頼区間 0.82-1.23 であった.男女とも結果はよく似ていた.

結論:穀物,果実および野菜の食物繊維の消費は心血管疾患リスクと負の相関が見られる.

Arch Inern Med. 2004; 164: 370-376

 食物繊維は様々な機序を通じて,すなわち血清脂質組成の改善,降圧作用並びにインスリン感受性と線溶系活性とを改善することで心血管疾患リスクを減少させているのかもしれない.いくつかの観察研究において食物繊維が心血管疾患のリスク因子と負の相関を示すことが分かってきた.

 最低 10 件の前向きコホート試験で食物繊維と心血管疾患発生との関係を精査した.それらの試験のうち一つを除いて全て負の相関を報告していた.方法および解析技術の相違により繊維摂取総量および繊維の種類(由来が穀物か果実か野菜かおよび水溶性か否か)のこの相関の強度は不明のままであった.更に,4編のみの試験では男性を除外して女性における所見を報告していた.他の生活スタイル因子によるネガティブな刊行バイアスおよび残差交絡の可能性が残っている.ゆえに我々は米国およびヨーロッパにおける 10 件の前向きコホート試験から系統的解析を行った.それには Pooling Project of Cohort Studies on Diet and Coronary Disease を含んでいた.

方法

 このプール解析には下記の適合基準を適用した.すなわち,最低 150 例の冠動脈疾患発症例を有する前向き試験,日常の食事摂取の評価,および食事評価法の検証試験またはそれに近い関連する機器.文献検索およびその道の専門家への質問を通じて 14 の試験が適合基準に合致するとして同定され,11 試験の研究者がプロジェクトにおけるデータの提供に賛同した.1 編の試験は食物繊維摂取量のデータを有していないため除外された.利用できる 3 編の試験の研究者は,皆米国からの報告だったのだが,試験への参加に賛同しなかった.残った試験を Table 1 に示す.Nurses’ Health Study (NHS) の経験の解析のための観察期間は,食事摂取を繰り返し評価していることと長期間の観察期間という利点から2つの期間に分割した.1980-1986 年の観察期間は Nurses’ Health Study A (NHSa) と呼ばれ,1986 年まで心血管疾患を発症しなかった女性の 1986-1996 年の観察期間は Nurses’ Health Study B (NHSb) と呼ばれた.生存期間の underlying theory に基づき,異なる期間における人-期間のブロックは,同じ人に由来したとしても統計的に独立であった.ゆえに,これらの2つの期間からのプール推定値は一つの期間を用いたのと等価であり,1980 年と比較して 1986 年における強化された曝露評価における利点を有している.

食事評価

 いずれの試験においても食物摂取頻度アンケートまたは食事履歴計器によるベースラインの食事を計測していた.Adventist Health Study (AHS) においては原食物繊維だけを評価していた.そのため,このコホートにおいては食物繊維総量の近似のため原食物繊維に 3.5 を掛け算した.これは他の試験から得られた原食物繊維の食物繊維総量に対する比である.食物繊維総量に加え,我々は 3 つの食品群からの繊維摂取量を調査した.それには穀物(全粒穀物),果実および野菜が含まれ,不溶性食物繊維(ヘミセルロース,セルロースおよびリグニン)および水溶性食物繊維(ペクチン,ガム質および粘液質)も含まれる.穀物,果実および野菜由来の繊維は AHS および Glostrup Population Study (GPS) 以外のすべての試験で利用可能であった.広い種類の食品が各々の繊維の種類に寄与しており,ある種の食物は多くの試験において相対的に寄与していた.トウモロコシやエンドウなどのでんぷん質の野菜はすべての試験において野菜の繊維に実質的に寄与していた.Finish Mobile Clinic Health Examination Survey (FMC) および Vasterbotten Intervention Program (VIP) のみがバレイショの繊維を野菜の繊維に含めており,これら 2 編の試験においてはバレイショの繊維は野菜の繊維の一般的形態であった.6 編の試験のみが不溶性食物繊維および水溶性食物繊維の推定値を有していたが,食品成分表に基づいてこれらの繊維の種類を推定する標準的方法がなかったため,結果の解釈は注意深くあるべきである.

症例確認

標準化基準を用いて全ての試験における致死的または非致死的心筋梗塞症例の確認を行った.IWHS のみが心血管疾患発症において自己申告データであったため,この試験からは致死的心筋梗塞症例のみを抽出した.我々は全ての致死性および非致死性冠動脈イベントおよび冠動脈疾患死について個別分析を行った.

統計解析

 ベースライン人口のエネルギー摂取量の平均値を対数変換した研究特異的な 3SD より大又は小のエネルギー摂取量を報告した場合には約 1 % の参加者を各試験から除外した.臨床的な疾患の出現自体が食事変化をもたらす可能性があるため,我々はまたベースラインにおいて心血管疾患や糖尿病,癌(黒色腫でない皮膚がんを除く)の既往のある参加者も除外した.ARIC, FMC, GPS および IWHS の 4 試験では10 年より長い観察期間は試験期間中の異質性を減らすために切り捨てられた.それぞれのコホート内で繊維の増加ごとの相対リスク (RRs)(発症率の比)を比例ハザード回帰モデルを用いて計算した.SAS 統計ソフトバージョン 8 の PRC PHREG プログラムで計算した.相対リスクは関連するベースライン人口,生活スタイルおよび食事因子で調整した.共変量のカテゴリーは若干の例外はあるものの試験の間で標準化した.既往歴については試験の間の情報は次のいくつかまたは全てを含んでいる.すなわち,疾患の自己申告,内服薬の使用または生体計測(例,血圧と血清コレステロール値など).身体活動については試験の間の情報は,低い・中等度・高い余暇活動の単純なカテゴリーから総身体活動の連続値の代謝指数にまで渡り,代謝指数は 5 群に分類された. 1 編の試験では身体活動は利用できなかった.2 編の試験ではアルコール摂取が利用できなかった.三つの回帰モデルで次のように計算した.モデル 1 は年齢(歳),エネルギー摂取量(1日あたりのキロカロリー),喫煙状態(一度も喫煙したことがない,かつて喫煙していた,または現在喫煙しておりその本数が 1 日 1-4, 5-14, 15-24, 25 本以上),体格指数 (<23, 23-<25, 25-<27.5, 27.5-<30, 30-), 身体活動(レベル 1-5),学歴(高校未満,高校,大学以上),アルコール摂取量 (0, <5, 5-<10, 10-<15, 15-<30, 30-<50, 50- mL/d), 複合ビタミン剤服用(はい,いいえ),高コレステロール血症(はい,いいえ)そして高血圧(はい,いいえ).モデル 2 はモデル 1 の共変量を含み,さらにエネルギーで調整した飽和脂肪酸の五分位数,多価不飽和脂肪酸,そしてコレステロール.モデル 3 はモデル 2 の共変量を含み,さらにエネルギーで調整した葉酸およびビタミン E サプリメントの五分位数.

 両側 95 % 信頼区間を計算した.我々は DerSimonian および Laird により開発されたランダム効果モデルを採用し Log RRs を結合した.つまり試験特異的相対リスクをその分散の合計の逆数で重み付けしたものである.我々は試験間の分散要素 Q 統計値の推定値を用いて試験間の異質性をテストした.

 回帰分析を実行する前に,食物繊維およびすべての食事の共変量をエネルギー摂取量について各試験内で調整した.我々はエネルギーで調整した食物繊維を連続変数として解析した(10 g/d ごとの増分).我々はまた五分位数および十分位数もまた調べ,コホート特異的な分布に基づき,相関が線形で連続値の繊維の解析について一貫性のあるものかを定義した.食物繊維摂取量の境界値の絶対値を用いて,すべての試験について可能な範囲で全ての食物繊維摂取量にわたって我々はまた心血管疾患のリスクを調べた.五分位間での傾向の検定に P 値を計算するため,参加者は五分位数の食物繊維摂取量の中央値を割り付けられ,この値は Cox 回帰モデルの連続項として入力された.連続値としての食物繊維摂取量の結果は食事測定誤差によるバイアスを補正され,繊維単独においては,回帰補正法を用いた.この補正は特異的な食物源からの繊維摂取量には実行できなかった.というのは繊維のこれらの源を含む検証試験が殆どなされていなかったからである.他の共変量およびそのモデルにおける食事因子への測定誤差補正はなされなかった.

 我々は以下の共変量が繊維摂取量と心血管疾患リスクの関係を修飾するか否かを評価した.すなわち,性別,年齢(10歳ごとのカテゴリー),観察期間,体格指数 (<25, 25-30, >30), 喫煙(全く吸わない vs 以前喫煙歴ありまたは現在喫煙している),飽和脂肪酸摂取量(エネルギー摂取量中のパーセンテージ五分位数),そして高血圧ならびに高脂血症の既往(陽性又は陰性).関心のある各因子ごとに,各因子のレベルの点数および連続値として表現される繊維摂取量との直積項を各多変量モデルに含めた.試験特異的交互作用係数をプールし,プールした交互作用項の標準誤差の自乗で割ることで結果として得られる自由度 1 のカイ二乗分布を参照して, Wald 統計値の自乗を用いて効果修飾の検定のプールした P 値を得た.いかなる統計的有意な年齢または観察期間の効果修飾の欠如も比例ハザード仮定を支持する.

結果

 総計 91,058 名の男性および 245,186 名の女性,2,506,581 人年の観察期間の貢献が解析に含まれた.イベント総数は 5,249 件であり 2,011 名の致死症例があった (Table 1). 各コホートごとの繊維摂取量の中央値は Table 1 に示した.

 全ての主要な致死性・非致死性冠動脈イベントおよび冠動脈死の相対リスクを,エネルギー調整した繊維摂取総量の 10 g/d の増分ごとに Table 2 に示した.全ての人口学的および非食事性生活スタイル因子で調整した解析では,食物繊維摂取量が 10 g/d 増えるごとに,全冠動脈イベントの 12 % のリスク減少および冠動脈死の 19 % 減少を観察した.これらのプール推定値は,食事性の脂肪酸摂取量,モデル 2 における食事性コレステロール摂取量およびモデル 3 における葉酸とビタミン E の食事並びにサプリメントからの摂取量で調整しても,ごくわずかの減衰しか認めなかった.これらの相関は男性および女性において近似しており,冠動脈死の相対リスクおよび 95 % 信頼区間はそれぞれ 0.82 (0.72-0.94), 0.80 (0.66-0.96) であった.さらに α および β カロテン,n-3 系脂肪酸および α リノレン酸で調整しても結果に実質的な違いはなかった(データは示さない).食物繊維摂取量の五分位数の解析も同様の所見を示した.第 5 五分位数と比較して第 1 五分位数の相対リスクは全イベントで 0.90 であり傾向検定では P < 0.09 であった.冠動脈死の相対リスクは 0.70 で傾向検定では P < 0.001 であった.モデル 3 の結果は補正されたか繊維単独において測定誤差に由来するバイアスであった.10 g/d の増加ごとの相対リスクは全冠動脈イベントで 0.86 であり 95 % 信頼区間は 0.78-0.96 であった.冠動脈死では相対リスク 0.73 であり 95 % 信頼区間は 0.61-0.87 であった.

 繊維の種類による結果については Table 3 に要約してある.モデル 3 で行ったように全ての人口学的因子,生活スタイル因子,食事性因子について調整済みである.穀物の繊維 10 g/d の増加につき 10 % の冠動脈イベントのプールした相対リスク減少,果実の繊維 10 g/d の増加につき 16 % の冠動脈イベントの減少を認めたが,穀物繊維については 95 % 信頼区間が 1.00 を含んでいた.全イベントよりも冠動脈死の方がより強い相関を示した.すなわちそれぞれ 10 g/d 増加ごとに穀物繊維では 25 % のリスク減少,果実繊維では 30 % のリスク減少を示した.対照的に,野菜の繊維は冠動脈疾患発生や死亡について有意ではなかった.8 試験で穀物繊維と全冠動脈イベントとの解析において相対リスクの異質性 (P = 0.025) が観察された.この異質性は女性の 3 コホート (ARIC, NHSa, VIP) における正相関による性別の差異で説明されているように見えた.他のいかなる解析においても有意な異質性は観察されなかった.

 穀物および果実の繊維で観察された相関が独立か否かを定義するため,我々はこれらの繊維の種類を同じ回帰モデルに含めた.これらの解析の結果は全てのイベントにおいて近似しており,全イベントについて果実繊維の相対リスクは 0.81, 95 % 信頼区間は 0.69-0.95, 穀物繊維の相対リスクは 0.89, 95 % 信頼区間は 0.76-0.1.05, 死亡について果実繊維の相対リスクは 0.65, 95 % 信頼区間は 0.49-0.86, 穀物繊維の相対リスクは 0.71, 95 % 信頼区間は 0.59-0.87 であった.これは穀物と果実の繊維がそれぞれ独立であることを示唆していた.我々はまた水溶性食物繊維および不溶性食物繊維と心血管疾患リスクとの関連についても調査した.両者の摂取は全ての冠動脈イベントおよび冠動脈死と逆相関していた.相対リスクに異質性は全く観察されなかった.水溶性食物繊維において相関はより強かった.全イベントについて 10 g/d 増加で相対リスクは 0.72, 95 % 信頼区間は0.55-0.93, 死亡について相対リスクは 0.46, 95 % 信頼区間は 0.28-0.74 であった.一方,不溶性食物繊維においては全イベントについて相対リスク 0.90, 95 % 信頼区間は 0.83-0.97, 死亡について相対リスクは 0.80, 95 % 信頼区間は 0.69-0.92 であった.広い信頼区間にもかかわらず,水溶性および不溶性食物繊維が同じモデルに含まれる時,結果は近似していた.

 年齢,観察期間(最初の 2 年間の除外を含むか,最初と次の 5 年間で層別化してある),体重超過の状態,喫煙および飽和脂肪酸摂取量で層別化した時,データは示さないが,食物繊維総量で測定誤差補正したその結果は一般に一貫性があった.食物繊維と他のこれらの共変量との間には有意な相互作用はなかった.

 最後に,エネルギー調整した食物繊維の境界値の絶対値による結果を Figure に示す.参照カテゴリーは 18 から 21 g/d であり Table 3 と同じ調整をしてある.

考察

 本試験の結果は以下のことを示唆している.食物繊維は男女いずれにおいても心血管疾患リスクと逆相関している.その相関は冠動脈死についてより強く,食物繊維総量 10 g/d 増加につき 27 % のリスク減少を認め,全イベントについては 14 % のリスク減少を認める.穀物繊維と果実繊維が心血管疾患リスクと強い負の相関を認めるにもかかわらず,野菜繊維にはそのような相関は全く観察されなかった.これらの相関は他の食事因子,性別,年齢,ベースライン体格指数,喫煙,高血圧の既往,糖尿病および高コレステロール血症とは独立であると考えられた.

 各研究間の相対リスクは概ね一貫していた.唯一穀物繊維と全冠動脈イベントの解析で相対リスクの異質性が観察されたのみであり,AHS, NHSa および VIP の女性の 3 コホートにおいて相対リスクが 1.00 を超えていた.NHSa においては,古いバージョンの食物摂取頻度アンケートが用いられており,繊維総量特に穀物繊維の定量にあたって限られた情報しか利用できなかった.NHSa における精製された穀物の穀物繊維への相対的寄与は誇張されているように見えたが,一方で全粒穀物においては逆のことが起きているように見えた.精製された穀物ではなく,全粒穀物は心血管疾患リスクを減少させることが示されたため,穀物繊維摂取量におけるそのような測定誤差が予期せぬ NHSa の所見を説明できるだろう.実際,以前刊行された NHS の知見は食物摂取頻度アンケートの繰り返し(1984 年,1986 年および 1990 年)における食物繊維摂取量の平均値の解析を含んでおり,その結果は強い負の相関を明らかにしており,5 g/d の穀物繊維増加ごとの相対リスクは 0.63 である.AHS および VIP の女性の所見はそれらの試験の男性のそれとは一致しなかった.さらに,これらの点推定値の信頼区間が広いため,我々はそこから有意義な推論を引き出すことができなかった.

 プールされたプロジェクトに含まれる繊維と心血管疾患との 4 編の研究の知見は既に刊行されている.NHS および HPFS においては,穀物繊維に最も強い負の相関が観察され,果実および野菜繊維でより弱い相関となった.ATBC においては,全ての種類の繊維について負の相関が概ね観察された.WHS においては Liu らにより果実繊維摂取量と全心血管疾患リスクとの間に最も強い相関が観察されたが,一方で心筋梗塞発症との相関は全く観察されなかった.食物繊維と心血管疾患との 6 編の刊行された試験はプールされたプロジェクトには含まれていなかった.というのは,最低 150 件の発症または食事評価の検証という要求に合致しなかったか,あるいは我々がその存在に気付かなかったからである.食物繊維摂取量と心血管疾患との間の統計的有意な負の相関を示した 3 編の報告のうち,2 編は統計的有意でない負の相関を報告し,1 編の試験は全く有意でない正相関を報告している.Mann らは食物繊維消費総量の増加に伴い有意でない心血管疾患リスクの増加を観察しているが,この結果は死亡が 38 例とイベント発生数が少ないため疑わしいとされている.

 野菜繊維摂取量と心血管疾患リスクとの間の負の相関を支持する結果は少ない.この結果に対する可能性のある説明の一つとして,栄養素に乏しく高血糖を負荷する一般的なでんぷん,および大きく加工された野菜,つまりトウモロコシやエンドウマメなどの性質が挙げられる.VIP および FMC の 2 編の研究はまたバレイショも野菜繊維の解析に含めていた.食事性の血糖負荷が実質的に心血管疾患と 2 型糖尿病とのリスク増加につながることが明らかになってきている.ゆえに,いかなる野菜繊維の有用な効果もでんぷん性野菜の副作用に対抗することができる.研究と公衆衛生勧告の両者において,食品の種類が研究され,推奨され,さらに(疾患リスクを)減衰させるべきである.本試験の一つの限界は,食物繊維におけるこれらの解析を補う食品データが欠損していることである.心血管疾患との関連における食品と食事パターンのプール解析は本調査の範囲を超えるものであるが,それらは将来の調査では必ず含めるべきである.

 さらなる関心事として,水溶性繊維および不溶性繊維の両者が心血管疾患からの保護をもたらすのかどうかということがある.以前の研究ではこの可能性を支持しており,繊維のいずれのクラスにも一貫した利点はなかった.本試験では両者の繊維に負の相関が観察されたが,相対リスクは水溶性繊維においてより強く,10 g/d 増加ごとの冠動脈死の相対リスクは 0.46 に至っていた.これらの結果は慎重に解釈しなければならない.というのは,たかだか 6 編の研究しか不溶性繊維および水溶性繊維について推定していないからであり,これらの推定値に由来するのに使用された標準化手法は存在しないからである.しかしながら,水溶性繊維の特徴としてこれらの所見を説明できるかもしれない.つまり小腸管腔内の粘性を増加させる傾向にあり,ゆえに栄養素および潜在的に結合する胆汁酸の吸収を緩徐にしていると.このようにインスリン分泌を減少させ,血糖コントロール,血清コレステロール値および血圧を改善させる効果が明らかにされている.にもかかわらず,水溶性繊維および不溶性繊維の両者と心血管疾患リスクが逆相関するという今回の解析における所見はあらゆる種類の食物繊維に富む食品消費量の増量を推奨することを支持している.

 プールプロジェクトの利点は,過去に陰性の刊行バイアスを疑われて刊行されなかった結果を含めていることである.そこで,プールされた結果は個々に出版された研究に比べてより真の相関に近いかもしれない.他の利点としてすべての研究に渡る解析戦略の系統的実行,モデリングの露出および一様に重要な共変量が含まれる.そのような努力は相対リスク推定値間の異質性の尤度を減少させ,ゆえにプール推定値の一般化可能性を強化することになる.ゆえに,プールプロジェクトは利用可能な観察データを最もよく使用して食事と慢性疾患についての仮定を記述するものである.食物繊維の測定誤差を補正するための検証研究からのデータを使用できることが本解析の強みであるが,我々は全ての共変量および他の食事因子の測定誤差を調整できなかったため,測定誤差補正は注意深く解釈しなければならない.他の限界として食事評価および食品成分表という手法の異質性が挙げられる.特に水溶性繊維および不溶性繊維の解析にとって,受け入れられた測定法は存在せず,6 編の研究がこれらの繊維の種類を定量したのみである.しかしながら,我々は研究の間における相対リスクで唯一統計的有意な異質性を発見し,我々の手法の限界がその知見の検証を弱体化させるものではなかったことを示唆していた.

 結論として,我々の結果は成人における食物繊維摂取量が心血管疾患リスクと負の相関を示すことを支持している.冠動脈リスクは食物繊維総量,穀物繊維,または果実繊維摂取が 10 g/d 増えるごとに 10 % から 30 % 減少していた.その結果は以前刊行されたコホート試験の結果を強く確認させることをもたらし,非常に多くの基礎研究が,広範囲の可能性のある生物学的機序を通じて,食物繊維が心血管疾患リスクを減少させる可能性があることを証明していることを支持している.ゆえに,心血管疾患を予防するために食物繊維を豊富に含む食品の摂取を推奨することは一貫した科学的根拠のある富に基づいているのである.

参照:
日本人の食事摂取基準(2015 年版)炭水化物 (pdf)
日本人の食事摂取基準(2010 年版)炭水化物 (pdf)

 長文お読みいただきありがとうございました.さて,ここからは宣伝です.皆様の主食は米でしょうか,小麦粉でしょうか.私は米です.以前は精白米を購入しておりましたが,時間が経つとやはり味が落ちます.そこで下の精米機を 5 年前に導入しました.玄米を購入し,その都度精米して炊くわけです.精製してすぐのお米はやはり美味しいです.

 この精米機はとにかく丈夫です.5 年使ってますが壊れる気配がありません.精米の程度も細かく指定できます.音はやかましいですがこれは仕方ありません.お勧めです.

n-3 系脂肪酸

 n-3 系脂肪酸には食用調理油由来の α リノレン酸と魚由来のエイコサペンタエン酸 (EPA), ドコサペンタエン酸 (DPA) およびドコサヘキサエン酸 (DHA) などがあります.これらの脂肪酸は生体内で合成できず,欠乏すると皮膚炎を発症します.n-3 系脂肪酸の生理作用は n-6 系脂肪酸と競合するだけでなく独自の作用をも持つため,独自の摂取基準を設定しました.

乳児

 0-5 ヶ月児の目安量は母乳中の n-3 系脂肪酸濃度 1.16 g/L に基準哺乳量 0.78 L/d を乗じて 0.9 g/d に設定しました.6-11 ヶ月児の目安量は 0-5 ヶ月児の目安量と平成 22 年および 23 年の国民健康・栄養調査に基づく 1-2 歳児の摂取量の中央値との平均値 0.8 g/d に設定しました.

小児・成人

 平成 22 年および 23 年の国民健康・栄養調査における n-3 系脂肪酸の総摂取量の中央値を目安量に設定しました.

妊婦・授乳婦

 平成 19 年から 23 年までの国民健康・栄養調査に基づく妊婦・授乳婦の n-3 系脂肪酸摂取量の中央値 1.8 g/d を目安量に設定しました.

α リノレン酸

 α リノレン酸と心血管疾患との間には弱い負の相関が報告されており,1 g/d のα リノレン酸摂取量の増加は心筋梗塞による脂肪を 10 % 減少させます.しかし日本人を対象とした十分な研究がないため,目標量は設定しませんでした.その他,前立腺がんのリスク,卵子機能との負の関連および妊娠可能性の低下の可能性など指摘されていますがいずれも確定したものではなく,α リノレン酸多量摂取の長期間の影響は分かっていません.

EPA および DHA

 EPA および DHA と冠動脈疾患との関連についてのメタ解析の結果は一致していません.日本人を対象とした研究には JPHC, JACC 研究JELIS などがあります.日本人における脳卒中への介入試験には JELIS があり,一次予防効果はなく二次予防効果のみ認められています.乳がんコホート研究のメタ解析結腸直腸がんコホート研究のメタ解析でのリスク減少の報告があります.日本人では JPHC 研究において近位大腸がんのリスク減少および肝がん罹患の減少が報告されています.認知症やうつ病については n-3 系脂肪酸との関連は分かっていません.

 魚には水銀,カドミウム,鉛やスズなどの重金属,PCB やダイオキシンなどの有害物質も含まれ,これらの有害物質については別の基準があります.そのため食事摂取基準では有害物質については考慮していません.

 n-3 系脂肪酸のうち α リノレン酸については 2010 年版では目標量が設定されていましたが 2015 年版では目標量は設定されていません.また EPA および DHA については 2010 年版では 18 歳以上において 1g/d 以上の摂取を推奨していましたが,2015 年版では目標量は設定されていません.

 n-3 系脂肪酸の食事摂取基準の 2015 年版および 2010 年版は下表のとおりです.

n-3 系脂肪酸の食事摂取基準 (g/d) (2015 年版)
性別 男性 女性
年齢 目安量 目安量
0-5 M 0.9 0.9
6-11 M 0.8 0.8
1-2 0.7 0.8
3-5 1.3 1.1
6-7 1.4 1.3
8-9 1.7 1.5
10-11 1.7 1.4
12-14 2.1 1.8
15-17 2.3 1.7
18-29 2.0 1.6
30-49 2.1 1.6
50-69 2.4 2.0
70- 2.2 1.9
妊婦 1.8
授乳婦 1.8
n-3 系脂肪酸の食事摂取基準 (2010 年版)
性別 男性 女性
年齢 目安量 (g/d) 目標量 (% energy) 目安量 (g/d) 目標量 (% energy)
0-5 M 0.9 0.9
6-11 M 0.9 0.9
1-2 0.9 0.9
3-5 1.2 1.2
6-7 1.6 1.3
8-9 1.7 1.5
10-11 1.8 1.7
12-14 2.1 2.1
15-17 2.5 2.1
18-29 ≤ 2.1 ≤ 1.8
30-49 ≤ 2.2 ≤ 1.8
50-69 ≤ 2.4 ≤ 2.1
70- ≤ 2.2 ≤ 1.8
妊婦 1.9
授乳婦 1.7

参照:
日本人の食事摂取基準(2015 年版)脂質 (pdf)
日本人の食事摂取基準(2010 年版)脂質 (pdf)

n-6 系脂肪酸

 日本人が摂取する n-6 系脂肪酸の 98 % はリノール酸です.生体は n-6 系脂肪酸を合成できないため経口摂取する必要があります.平成 22 年および 23 年の国民健康・栄養著差によると,日本人の n-6 系脂肪酸摂取量の中央値は男性 10.0 g/d (4.3 %E), 女性 8.4 g/d (4.6 %E) です.健康な人の推定平均必要量の設定に必要な報告はなく,日常生活で n-6 系脂肪酸の欠乏による皮膚炎の報告はないため,目安量を設定しました.

乳児

 0-5 ヶ月児については母乳中の n-6 系脂肪酸濃度 5.16 g/L に基準哺乳量 0.78 L/d を乗じて4.0 g/d を目安量としました.6-11 ヶ月児については 0-5 ヶ月児の目安量と 1-2 歳児の目安量の平均を求め,4.3 g/d を目安量に設定しました.

小児・成人

 平成 22 年および 23 年の国民健康・栄養調査から算出した n-6 系脂肪酸摂取量の中央値を目安量に設定しました.

妊婦・授乳婦

 平成 19 年から 23 年までの国民健康・栄養調査から算出した妊婦の n-6 系脂肪酸摂取量の中央値は 9 g/d であり,これを目安量に設定しました.同様に授乳婦の n-6 系脂肪酸摂取量の中央値は 9 g/d であり,これを目安量に設定しました.

 リノール酸は一価不飽和脂肪酸のオレイン酸より酸化されやすく多量に摂取した際のリスクは十分に分かっていません.またリノール酸は炎症惹起物質のプロスタグランジンやロイコトリエンを生成するため,多量摂取時の安全性が危惧されます.n-6 系脂肪酸については過剰摂取のリスクが想定されていますが,日本人を対象とした報告がないため目標量は設定されていません.

 n-6 系脂肪酸の食事摂取基準の 2015 年版および 2010 年版は下表のとおりです.

n-6 系脂肪酸の食事摂取基準 (g/d) (2015 年版)
性別 男性 女性
年齢 目安量 目安量
0-5 M 4 4
6-11 M 4 4
1-2 5 5
3-5 7 6
6-7 7 7
8-9 9 7
10-11 9 8
12-14 12 10
15-17 13 10
18-29 11 8
30-49 10 8
50-69 10 8
70- 8 7
妊婦 9
授乳婦 9
n-6 系脂肪酸の食事摂取基準 (2010 年版)
性別 男性 女性
年齢 目安量 (g/d) 目標量 (% energy) 目安量 (g/d) 目標量 (% energy)
0-5 M 4 4
6-11 M 5 5
1-2 5 5
3-5 7 6
6-7 8 7
8-9 9 8
10-11 10 9
12-14 11 10
15-17 13 11
18-29 11 < 10 9 < 10
30-49 10 < 10 9 < 10
50-69 10 < 10 8 < 10
70- 8 < 10 7 < 10
妊婦付加量 + 1
授乳婦付加量 + 0

参照:
日本人の食事摂取基準(2015 年版)脂質 (pdf)
日本人の食事摂取基準(2010 年版)脂質 (pdf)

飽和脂肪酸

 欧米の多くの介入試験では飽和脂肪酸摂取量を減少させると冠動脈疾患罹患率,動脈硬化度,LDL コレステロール値の減少が認められています.日本人を対象とした JPHC 研究においては飽和脂肪酸摂取量と心筋梗塞発症に正相関が認められています.しかし,飽和脂肪酸摂取量減少が脳出血の増加を起こすかどうかについては分かっていません.

成人

 飽和脂肪酸の過剰摂取は動脈硬化性疾患,特に心筋梗塞のリスクと考えられています.その発症予防,重症化予防のために飽和脂肪酸の摂取量を制限するだけでなく多価不飽和脂肪酸の摂取量を増やすことが重要です.各国において成人における飽和脂肪酸摂取量は 10 %E 未満が望ましいとしています.アメリカ心臓協会およびアメリカ糖尿病学会は 7 %E 未満としています.平成 23 年国民健康・栄養調査によると 20 歳以上の日本人の飽和脂肪酸摂取量は 6.9 %E です.成人の飽和脂肪酸の目標量は 7 %E 未満に設定されました.

小児

 小児期の飽和脂肪酸の過剰摂取は中年での冠動脈疾患や肥満の原因となる可能性があり,小児期でも飽和脂肪酸の目標量は 7 %E 未満が望ましいとしながらも,疫学研究や関連する研究,介入試験が不十分であり小児の目標量の設定には至りませんでした.

 飽和脂肪酸の食事摂取基準の 2015 年版および 2010 年版は下表のとおりです.いずれも乳児・小児および妊婦・授乳婦については設定されていません.

飽和脂肪酸の食事摂取基準 (% energy) (2015 年版)
性別 男性 女性
年齢 目標量 目標量
0-5 M
6-11 M
1-2
3-5
6-7
8-9
10-11
12-14
15-17
18-29 ≤7 ≤7
30-49 ≤7 ≤7
50-69 ≤7 ≤7
70- ≤7 ≤7
妊婦(付加量)
授乳婦(付加量)
飽和脂肪酸の食事摂取基準 (% energy) (2010 年版)
性別 男性 女性
年齢 目標量(範囲) 目標量(範囲)
0-5 M
6-11 M
1-2
3-5
6-7
8-9
10-11
12-14
15-17
18-29 4.5≤<7 4.5≤<7
30-49 4.5≤<7 4.5≤<7
50-69 4.5≤<7 4.5≤<7
70- 4.5≤<7 4.5≤<7
妊婦(付加量)
授乳婦(付加量)

参照:
日本人の食事摂取基準(2015 年版)脂質 (pdf)
日本人の食事摂取基準(2010 年版)脂質 (pdf)

たんぱく質

RecommendeAmountProtein

 たんぱく質についての記載は 2010 年版では 9 ページ,参考文献は 73 件ですが 2015 年版では 14 ページ,参考文献 119 件に増えています.

 2010 年版では耐用上限量を設定していませんが,成人においてはたんぱく質摂取量は 2.0 g/kg/d 未満に留めるのが望ましいとしています.

 2015 年版では生活習慣病の重症化予防に重点を置いており,たんぱく質エネルギー比率が 20 % エネルギーを超えた場合の健康障害として糖尿病発症リスクの増加,心血管疾患の増加,がんの発症率の増加,骨量の減少,BMI の増加を挙げて,たんぱく質エネルギー比率が 20 % エネルギーを超えないように注意を喚起しています.

 不可欠アミノ酸(必須アミノ酸)の推定平均必要量については 2010 年版では成人のみ記載されていましたが 2015 年版では乳児・小児についても記載が追加されています.

 2015 年版のたんぱく質の食事摂取基準は下表のとおりです.

たんぱく質の食事摂取基準(推定平均必要量・推奨量・目安量 (g/d), 目標量(中央値) % エネルギー)2015 年版
性別 男性 女性
年齢 推定平均必要量 推奨量 目安量 目標量 (中央値) 推定平均必要量 推奨量 目安量 目標量 (中央値)
0-5 M 10 10
6-8 M 15 15
9-11 M 25 25
1-2 15 20 13-20 (16.5) 15 20 13-20 (16.5)
3-5 20 25 13-20 (16.5) 20 25 13-20 (16.5)
6-7 25 35 13-20 (16.5) 25 30 13-20 (16.5)
8-9 35 40 13-20 (16.5) 30 40 13-20 (16.5)
10-11 40 50 13-20 (16.5) 40 50 13-20 (16.5)
12-14 50 60 13-20 (16.5) 45 55 13-20 (16.5)
15-17 50 65 13-20 (16.5) 45 55 13-20 (16.5)
18-29 50 60 13-20 (16.5) 40 50 13-20 (16.5)
30-49 50 60 13-20 (16.5) 40 50 13-20 (16.5)
50-69 50 60 13-20 (16.5) 40 50 13-20 (16.5)
70- 50 60 13-20 (16.5) 40 50 13-20 (16.5)
妊婦初期付加量 0 0
妊婦中期付加量 5 10
妊婦後期付加量 20 25
授乳婦 付加量 15 20

 2010 年版のたんぱく質の食事摂取基準は下表のとおりです.

たんぱく質の食事摂取基準 (g/d) 2010 年版
性別 男性 女性
年齢 推定平均必要量 推奨量 目安量 耐用上限量 推定平均必要量 推奨量 目安量 耐用上限量
0-5 M 10 10
6-8 M 15 15
9-11 M 25 25
1-2 15 20 15 20
3-5 20 25 20 25
6-7 25 30 25 30
8-9 30 40 30 40
10-11 40 45 35 45
12-14 45 60 45 55
15-17 50 60 45 55
18-29 50 60 40 50
30-49 50 60 40 50
50-69 50 60 40 50
70- 50 60 40 50
妊婦初期付加量 0 0
妊婦中期付加量 5 10
妊婦後期付加量 20 25
授乳婦 付加量 15 20

 窒素出納実験により測定された動物性たんぱく質のたんぱく質維持必要量をもとに,それを日常食混合たんぱく質の消化率で補正して推定平均必要量算定の参照値を算定し,その上に個人間変動を加えて推奨量を算定します.

 たんぱく質の推奨量 (g/d) は,推定平均必要量 (g/d) と推奨量算定係数との積です.推定平均必要量は,推定平均必要量算定の参照値 (g/kg/d) と参照体重 (kg) との積です.推定平均必要量算定の参照値は,たんぱく質維持必要量 (g/kg/d) を消化率で除した値です.

 推奨量算定系数は 1.25 です.消化率は 0.9 です.

成人

 動物性たんぱく質の窒素出納維持量を検討した 17 の研究の平均値から求めた成人のたんぱく質維持必要量は 0.65 g/kg/d で,消化率 0.9 で割ると推定平均必要量算定の参照値は 0.72 g/kg/d です.

\mathrm{Estimated\ Averege\ Requirement}=0.72\times\mathrm{Reference\ Weight}
\mathrm{Recommended\ Amount}=\mathrm{Estimated\ Average\ Requirement}\times1.25

高齢者

 高齢者のたんぱく質推定平均必要量は 0.85 g/kg/d です(ただし消化率で補正済み).5 つの研究の 60 名の被験者の窒素出納 144 データを用いたプール解析から算出した値です.

小児

 小児の推定平均必要量算定の参照値は,たんぱく質維持必要量とたんぱく質蓄積量の和です.推定平均必要量は,推定平均必要量算定の参照値に参照体重を乗じて求めます.推奨値は推定平均必要量に推奨量算定係数 1.25 を乗じた値です.たんぱく質維持必要量は 0.67 g/kg/d です.

小児についてはさらに下表のように詳細な記載があります.2010 年版もありますが,基準体重の数値およびその計算結果が異なるだけなので掲載しません.また小児の推定平均必要量算定の参照値を求める下式は 2010 年版は誤りで,2015 年版が正しい式です.

小児の推定平均必要量,推奨量 2015 年版
男子
A B C D E F G H I
年齢 (Y) 参照体重 (kg) 体重増加量 (kg/Y) 体たんぱく質 (%) 体たんぱく質蓄積量 (g/kg/d) 蓄積効率 (%) たんぱく質維持必要量 (g/kg/d) 利用効率 (%) 推定平均必要量 (g/d) 推奨量 (g/d)
1-2 11.5 2.1 13.2 0.064 40 0.67 70 12.9 16.1
3-5 16.5 2.1 14.7 0.050 40 0.67 70 17.9 22.3
6-7 22.2 2.7 15.5 0.051 40 0.67 70 24.1 30.1
8-9 28.0 3.2 14.5 0.046 40 0.67 70 30.0 37.5
10-11 35.6 4.7 13.9 0.050 40 0.67 75 36.3 45.3
12-14 49.0 5.1 13.9 0.039 40 0.67 80 45.9 57.3
15-17 59.7 2.0 15.0 0.014 40 0.67 85 49.1 61.4
女子
A B C D E F G H I
年齢 (Y) 参照体重 (kg) 体重増加量 (kg/Y) 体たんぱく質 (%) 体たんぱく質蓄積量 (g/kg/d) 蓄積効率 (%) たんぱく質維持必要量 (g/kg/d) 利用効率 (%) 推定平均必要量 (g/d) 推奨量 (g/d)
1-2 11.0 2.2 13.0 0.070 40 0.67 70 12.5 15.6
3-5 16.1 2.1 14.1 0.051 40 0.67 70 17.5 21.8
6-7 21.9 2.5 14.1 0.045 40 0.67 70 23.4 29.3
8-9 27.4 3.4 13.7 0.046 40 0.67 70 29.4 36.7
10-11 36.3 5.1 14.6 0.057 40 0.67 75 37.6 47.0
12-14 47.5 3.0 14.8 0.026 40 0.67 80 42.8 53.6
15-17 51.9 0.7 11.9 0.004 40 0.67 85 41.5 51.8
\displaystyle D = \frac{B\times1,000}{365} \times \frac{C}{100 \times A}\\  \\  H = \left( \frac{D}{E} \times 100 + \frac{F}{G} \times 100 \right) \times A\\  \\  I = H \times 1.25

乳児

 乳児については目安量となります.0-5 ヶ月では 9.83 g/d であり, 6-8 ヶ月では 12.5 g/d であり, 9-11 ヶ月では 22.0 g/d です.人工栄養児の目安量は 0-5 ヶ月では 14.0 g/d であり, 6-8 ヶ月では 15.2 g/d であり, 9-11 ヶ月では 23.8 g/d です.

妊婦

 妊婦ではたんぱく質の付加量を最終的な体重増加を 11.0 kg と仮定し,体カリウム増加量から間接的に算定します.妊婦の付加量の推定平均必要量は初期は 0 g/d であり,中期は 4.51 g/d であり,後期は 18.98 g/d です.妊婦の付加量の推奨量は初期は 0 g/d であり,中期は 5.64 g/d であり,後期は 23.73 g/d です.

授乳婦

 授乳婦の付加量の推定平均必要量は 14.04 g/d, 推奨量は 17.6 g/d です.1 日の平均泌乳量は 0.78 L/d であり,母乳中のたんぱく質濃度の平均値は 12.6 g/L です.食事性たんぱく質の母乳たんぱく質への変換効率は 70 % です.

不可欠アミノ酸

 不可欠アミノ酸(必須アミノ酸)の推定平均必要量は下記のとおりです.

不可欠アミノ酸の推定平均必要量 2015 年版
His Ile Leu Lys SAA AAA Thr Trp Val Total
組織アミノ酸パターン 27 35 75 73 35 73 42 12 49 421
維持アミノ酸パターン 15 30 59 45 22 38 23 6 39 277
たんぱく質必要量 (g/kg/d) に対するアミノ酸必要量 (mg/kg/d)
年齢 維持量 成長量 His Ile Leu Lys SAA AAA Thr Trp Val Total
0.5 0.66 0.46 22 36 73 63 31 59 35 9.5 48 376
1-2 0.66 0.20 15 27 54 44 22 40 24 6.4 36 267
3-10 0.66 0.07 12 22 44 35 17 30 18 4.8 29 212
11-14 0.66 0.07 12 22 44 35 17 30 18 4.8 29 212
15-17 0.66 0.04 11 21 42 33 16 28 17 4.5 28 200
18- 0.66 0.00 10 20 39 30 15 25 15 4.0 26 183
評点パターン (mg/g protein)
年齢 His Ile Leu Lys SAA AAA Thr Trp Val Total
0.5 20 32 66 57 28 52 31 8.5 43 336
1-2 18 31 63 52 25 46 27 7.4 41 310
3-10 16 30 61 48 23 41 25 6.6 40 291
11-14 16 30 61 48 23 41 25 6.6 40 291
15-17 16 30 60 47 23 40 24 6.4 40 286
18- 15 30 59 45 22 38 23 6.0 39 277

参照:
日本人の食事摂取基準(2015 年版)たんぱく質 (pdf)
日本人の食事摂取基準(2010 年版)たんぱく質 (pdf)