いくつかの行列を含む特殊な定義と演算

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1. 行列が等しい

 二つの行列 A = (a_{jk}) および B = (b_{jk}) が同じ次数で(すなわち行と列の数が同じで) a_{jk} = b_{jk} の時にのみ 等しい

2. 行列の和

 仮に A = (a_{jk}) および B = (b_{jk}) が同じ次数ならば A および B A + B = (a_{jk} + b_{jk}) と定義できます.

 行列の交換法則と結合法則は,すなわちある同じ次数の行列 A,\ B,\ C を下記のように記述します.

A + B = B + A,\ A + (B + C) = (A + B) + C \cdots (2)

3. 行列の差

 仮に A = (a_{jk}) , B = (b_{jk}) が同じ次数を有するなら A および BA - B = (a_{jk} - b_{jk}) と定義できます.

4. 行列のスカラー倍

 仮に A = (a_{jk}) があって \lambda が任意の数またはスカラーの時 A\lambda による \lambda A = A\lambda = (\lambda a_{jk}) と定義できます.

5. 行列の積

 仮に A = (a_{jk})m\times n 行列で B = (b_{jk})n\times p 行列の時,A\cdot B または AB を行列 C = (c_{jk}) と定義できます.ここで

\displaystyle c_{jk} = \sum_{l = 1}^n a_{jl}b_{lk} \cdots (3)

また Cm\times p 次です.

 一般に AB \ne BA すなわち行列の積の交換法則は成り立たないことに注意してください.しかしながら結合法則と分配法則は成り立ちます,すなわち

A(BC) = (AB)C,\ A(B + C) = AB + AC,\ (B + C)A = BA + CA \cdots (4)

 ある行列 A がそれ自身との積をつくれるのは正方行列の場合のみです.積  A \cdot A  A^2 と記述します.同様に行列の累乗を定義できます.すなわち  A^3 = A\cdot A^2,\ A^4 = A\cdot A^3 などです.

6. 行列の転置

 行列 A の行と列を入れ替えることができるなら,その結果得られる行列は A転置 と呼び, A^T と記述します.記号では,仮に A = (a_{jk}) ならば A^T = (a_{kj}) と記述します.

以下を証明できます.

(A + B)^T = A^T + B^T,\ (AB)^T = B^TA^T,\ (A^T)^T = A \cdots(5)

7. 対称行列と歪対称行列

 ある正方行列 AA^T = A の時 対称 と呼び,A^T = - A の時 歪対称 と呼びます.

 任意の実正方行列(すなわち実数の要素のみからなる実正方行列)は常に実対称行列と実歪対称行列の和で表現できます.

8. 行列の複素共役

 仮に行列 A のすべての要素 a_{jk} が複素共役 \bar{a}_{jk} で置き換えられたら,その結果得られた行列は A複素共役 と呼び, \bar{A} と記述します.

9. エルミート行列及び歪エルミート行列

 ある行列 A がそれ自身の転置の複素共役に等しい時,すなわち A = \bar{A}^T であるなら エルミート行列 と呼びます.仮に  A = -\bar{A}^T の場合は A歪エルミート行列 と呼びます.仮に A が実行列ならこれらは対称行列および歪対称行列にそれぞれ短縮されます.

10. 主対角線と行列のトレース

 仮に A = (a_{jk}) を正方行列とすると対角線上のすべての要素 a_{jk} について  j = k であるものを principal あるいは 主対角線 と呼び,主対角線上の全要素の和を Aトレース と呼びます.

 ある行列の  j \ne k なる要素について a_{jk} = 0 の時その行列を 対角行列 と呼びます.

11. 単位行列

 ある正方行列について主対角線上の全要素が 1 に等しく他の要素が全てゼロに等しい時 単位行列 と呼び, I と記述します. I の属性については非常に重要です.

 AI = IA = A,\ I^n = I,\ n = 1,2,3,\cdots(6)

 単位ベクトルは行列代数において,普通の代数における数 1 と同じ役割を果たします.

12. 零行列またはヌル行列

 ある行列についてその要素が全てゼロに等しいなら ヌル行列 または 零行列 と呼び, O または単に 0 と記述します.すべての行列 A について同次数の 0 を考えると,

 A + 0 = 0 + A = A \cdots(7)

 また仮に A および 0 が正方行列なら

 A0 = 0A = 0 \cdots(8)

 零行列は行列代数においては通常の対数における数 0 と同じ役割を果たします.

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投稿者: admin

趣味:写真撮影とデータベース. カメラ:TOYO FIELD, Hasselblad 500C/M, Leica M6. SQL Server 2008 R2, MySQL, Microsoft Access.

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